Tips/コラム
USEFUL INFO
プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム
通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千
第14回
通訳のパフォーマンスをあげる魔法
皆さま、毎日とっても寒いですが、インフルエンザや風邪など、ひかれてませんか?
今年はインフルエンザに罹った人が、記録的多数らしいですね。
コロナでワクチンを何度も受けたので、ワクチン疲れでインフルエンザの予防接種を受けない人が多いのではないかとあるニュースでは言っていました。私には一度だけの接種だと効かないので、毎年インフルエンザ予防接種は二度うけます。ある二年間、一度だけの接種にしたことがあったのですが、見事に二年ともインフルエンザに罹りました。症状も軽くなく、フルコースをたどりました。人間の身体は個々違っていて、私は免疫ができにくいかもしれません。またはウイルスの受容体が寛容で、ウイルスが来たらすぐにくっついちゃうのかもしれません。健康第一なので、この時期は手洗いうがいを徹底して、あったかくして春を待ちましょう。
今月のコラムは、「通訳のパフォーマンスをあげる魔法」と題してお送りします。
良い通訳が出来る案件、やり切ったなと感じられる案件に出会うと、その業務が終わった時は、本当に胸と頭がすっきりして、帰路が楽しく、何とも言えない高揚感を覚えます。そのような感覚の持てる案件には、通訳者自身、そしてクライアント様についても一定の条件があると、長年の経験から感じています。
でもその前にある大前提条件は、通訳者自身にもスキルとその分野の専門知識があることであるのは言うまでもありません。それでも、「この日はいい日だった、やった!」と心から思える日はそう簡単に来るものではなく、その日にあたると嬉しいのです。
第一は、依頼された案件の会議の内容や分野に興味が持てるか?ということ。私はITやテクノロジーが専門です。会議はほとんどが技術的なものですが、それでも「人員削減の話」や「収益を上げるだけの話」という会議もあります。個人的な好みといえるでしょうが、私はそういった内容よりもテクノロジーが将来私たちの生活にどう影響を与えるか?ひいては、人類にどう貢献するのか、という内容が大好きです。特にハンディキャップのある人達にテクノロジーでどう貢献できるか?や先端技術により社会が変わるわくわく感のある会議が好きです。会議の内容がそうであると、資料の出る前にどんどん勉強をしてしまうし、資料からヒントを得て、拡大させて準備をするので、会議で何が出ても対応できるようになります。したがってパフォーマンスもよくなります。会議自体の内容に興味がそそられるかはとても大きな要素です。
次はクライアント様との相性です。企業にもさまざまな文化や雰囲気があり、100社あれば100通りです。担当する会社との相性という要素、私はあると感じています。担当者の対応の様子だとか通訳に対する気配りなど、会社によって違います。長く仕事をやっていると、結果としてクライアント企業の中で、多数の案件をしょっちゅう担当する企業が出てきます。不思議なことに、そういった企業の会議の通訳をすると、スピーカーが何を言おうとしているのか見当がつくようになり、呼吸が合ってくるので、とても良いパフォーマンスが出ることが多いです。たぶんその企業側も、私の訳し方や話し方を心地よいと思ってくれているのだと思います。その場合は失敗する案件はほとんどなく、どちらもが幸せな結果で終わります。これが相性の良い企業ということだと思います。
反対に合わない企業もあります。完璧に訳したのに評価してくれず、通訳での私の売りの技術としている「細かく全部訳す」スキルが全く空振りに終わる企業もあります。これは対人関係でもある「相性」なのだと思います。どちらが良い悪いではなく、仕方ないことであって、気にするものでもないと感じます。自分に合った企業から依頼があったら、楽しい気持ちで臨むことができ、リラックスして聞き取れますので、パフォーマンスは自ずからよくなります。
また通訳者側の要素、ここでは私という通訳側の要素もあります。
リモート案件ならば、仕事が始まる前に、ゆったりとした気分で心を整えて臨むようにしないと、ペースが作れません。直前までばたばたとして、興奮した状態で臨むと、スピーカーの言ってることを、真っ白な気持ちで聞くことができなくて、その会議の内容に入っていけないということが起こります。お仕事の依頼をくださったクライアント様に敬意と感謝をし、その気持ちで開始すると、ゆったりとした気持ちでバイアスなく正確にヒアリングができるのです。
現場の場合は、私は早めに行って、会場の周りにあるカフェで時間を過ごすようにしています。これは集合時間に一番に余裕をもって入ったらパフォーマンスが良いという、私の勝手なジンクスによります。会場を見て、そこに入って、空気を吸って、その一部となると、会議にもすんなりと入れます。
ここで少し不思議な体験をお話しします。
通訳をするとき、いわゆる「ゾーンに入る」ということが起こります。他の方はわかりませんし、私に限っての話かもしれません。会議が持つオーラ自体に自分が入っていって、そこで話されていることが見えるというか、自然に私にアプローチしてくることが、頻繁ではないのですが、あるのです。その時のパフォーマンスは、とても良くなります。例えばスピーカーとシンクロして本当に同時で通訳していますし、時にはスピーカーが次に言いそうなことがわかって、スピーカーの少し前に口から出て訳してしまうことがあります。
スポーツ選手でも音楽家でも「ゾーンに入る」ということを言う方がいますが、なんとなくわかる気がします。
また私は会議開始前に、その会議の持つエネルギーを整えるようにしています。それは心の中で、その日のアジェンダを想い、会議のメンバーを思い、会議全体がよどみなく流れるように、友好的に進み、皆がよかったねと思って終わるようにと、ある意味祈ります。こうなると精神論なので、万人に通用するとは思いませんが、私には効果があります。
まずその会議の参加者のことを「好き」になるので、好きな人達と話している感覚に近くなります。そうすると、クライアント対通訳者という関係ではなく、一緒に問題解決をしている同士という雰囲気で通訳に臨めます。そうなると、クライアントの聞きたいこと、疑問点がどこにあるのかなど見えてくるので通訳がやりやすくなります。つまりは、通訳者とクライアントの壁を取って、中立の立場を保ちつつあちら側(会議主催の企業やメンバー)へ行くということをするのです。このやり方が、皆さんに効くものであるのかはわかりませんが、毎日毎日複数案件をやっているうちに私が編み出した「パフォーマンスが良くなる魔法」なのです。
もちろん、何度も言いますが、日常の普通の勉強、専門分野の勉強をきちんとやってスキルを取得していること、これが大前提です。
何も努力しないのに、魔法は効きませんし通訳の魔女も微笑みません。
以上書いた内容は、私がずっと仕事をやってきた中で、「緊張しないようにするにはどうすればいいのか」、「できないかも知れない、失敗するかもしれないという永遠に続くストレスとどう付き合っていくといいのか」を悩みつつ試行錯誤して編み出した方法です。
さて、来週も大きなお仕事があるので、瞑想でもしましょうか。。。
来月は、「通訳が陥りがちな罠」として現場での経験をお話ししたいと思います。
相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。
仕事を探す
最新のお仕事情報