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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千

第18回

「なぜ英語を勉強するのか」

 

皆さまこんにちは。2025年も既に半分過ぎようとしています。
今年は関税、終わらない紛争、株価変動などいろいろなことが起こりました。
アメリカ政府がデフォルトをするかもしれない、リセッション(景気後退)のフェーズに入るなど、私たちにも影響のあるニュースやコラムが目につき、不安になることもしばしばです。

今月は、「なぜ英語を勉強するのか」という、きわめて基本的な内容を掘り下げてみます。
上に書いたこととこの題目と、どう関連しているのかと思われることでしょう。
本コラムは、ISSのコラムですので、大半は通訳になる方法という題目が多いですが、今月はもっと裾野を拡げて、英語全般の必要性について書いてみます。

第一に身近なところで、経済に関わる分野。
通訳スキルアップのため、ヒアリング練習と社会全般の傾向を知り、用語を拾うために10年以上日常ルーチンとしてYouTubeやポッドキャストで政治・経済・テクノロジーニュースを視聴しています。その結果として、株価の傾向がわかり、どこに投資をするとよいのかということを、個人レベルで見通せるようになりました。私はデイトレーダーではなく株の売買を生業にしてはいませんが、長期的な経済、株価の傾向、どの時点で国債から社債へ組み替えると良いのか、ということが勘でわかるようになりました。
ある日バフェット氏が日本株の整理をしましたが、それもリアルタイムのニュースで入ってきました。その後、また日本株へ戻る可能性があることもアメリカのニュースで報道されていました。そこから個人レベルでどうすればよいのかの判断のヒントが見えてきます。

今後の日本は、社会保障のコストが増大し、年金も個人責任でやってほしいという考えにシフトしているように思えます。NISAやiDeCoの推奨がその例でしょう。足りない分は、税優遇措置のある長期投資で賄ってください、ということだと思います。日本は、「安全でいい国、絶対国外では住まない」という人が圧倒的に多い国ですが、グローバル化に最も影響を受ける国でもあります。理由は食料もエネルギーも自給できないからです。特にエネルギー問題は致命傷ですし、過去にそれが原因で大戦も起こっています。
国内で楽しく心穏やかに過ごして行く、そのためにも世界の動向をリアルタイムで把握し、正しい経済行動をとることは、今後の日本にとっては必要かもしれません。日本経済は内需型とはいえ、その元となるモノや、生活の基盤の製造に不可欠なエネルギーは海外から輸入しているということ、世界のこの先をいち早くキャッチし、エネルギー問題に対処する必要のある国であることを、認識することが大切だと思います。

関税の混沌さも、毎日英語を聞いていると、日本へのサプライチェーンの影響も見えてきて、どの製品が品薄になるのかも予測がつくと思います。
英語を生で理解し、長短にわたるトレンドや国際情勢をつかみ、安全な方向へ進むことが大切です。情報量は、英語をマスターすると10倍近くになるのではないかと私は感じています。日本の放送局からの海外の情報は数時間遅れ、時には一日遅れで翻訳されて提供されますが、その内容も、ニュアンスが違っていて、「うーん、そんなこと言ってないのにな」と感じることもあります。
自分で、正しい情報を欧米そしてアジアからとることは、今後の生活や個人レベルでの安心安全につながると考えます。

次は、社会情勢を俯瞰して見ることができるということです。
最近の例としては、アメリカの大統領選挙と、先日行われたローマ法皇を決めるコンクラーヴェがあります。

アメリカ大統領選については、日本の報道ではハリス氏優勢一色でした。でも私は、ジョー・ローガンのポッドキャストや右左派両方のニュースや報道をリアルタイムで視聴していたので、トランプの勝利だと予測していました。2016年の第一期トランプ政権の時は、そこまで英語の情報をとっていなかったので、ヒラリー・クリントンが勝つと思っていました。その時もNYに永住している友人一家は、トランプの圧勝と言っていましたが。

そしてコンクラーヴェですが、初期の段階で、アメリカ、カナダ、もしくはフランス、イタリアから出るのではないかと予想していました。海外の報道では、カソリック組織の中では、全体の2/3の票は集まらないだろうと言いわれていた枢機卿が、日本の報道では最有力候補ともてはやされていました。そして私の予測は的中しました。歴史初のアメリカ人の法皇です。あんなに速く決まるとは意外でしたが。

何が言いたいかというと、社会の流れや正統なトレンドを、バイアスかかった報道ではなく、自分の目で見て聞いて判断することが、デジタル社会では本当に大切ということです。
社会の流れを知ったところで、じゃあ何が得になるのか、ということを思われるかもしれません。
とても極端な例を挙げますが、第二次世界大戦中のユダヤ人で、早々にアメリカやカナダに逃げた人と、情報が届かなくて、ずっとヨーロッパにとどまったユダヤ人の運命がそれを物語っています。勿論、こんなことが二度と起こってはならないのは当たり前です。でも世界がどの方向へ流れているのかを知ることが、生存に関わる国や時代があったということは忘れたくないですね。そして官製報道だけを聞いていると、適切な判断ができず不幸なことが起こる可能性があると歴史は証明しています。
今は、指先のタップ一つで世界中の報道にアクセスができます。バイアスがなるべく少なくなるような報道の取り方をして、自分たちの行く末を判断することはとても大切です。

次は、英語と安全・安心に関わること。
ロシア侵攻の初期の段階で、各国がウクライナ難民を受け入れると表明し、多数のウクライナ人が西欧やアメリカ、カナダなどへ難民としてわたりました。母国語圏の外へ逃れる場合、どこへ行って何をすれば迅速にできるのかという情報は、英語ができれば入手することは簡単だと思います。また身分証明できる有効なパスポートを持っていることも忘れてはいけません。英語で自分の立場や難民であることを説明することも、とても重要です。

私は、家族を訪問、または仕事で海外へ行くことが多いです。飛行機に乗る時にいつも感じるのは、もし私も英語ができなかったら、機体に何かあった時にパニックになった機内で、機長の英語の放送が理解できるだろうか、適切な行動がとれるだとうかということです。できるだけ日系エアラインに乗って太平洋を越えますが、米国内は選択肢なく米航空会社に乗ります。搭乗中もし何かあった時に、この身は守れるのだろうかといつも考えています。同時通訳者として30年の経験があっても、パニック下でちゃんと聴きとれるのか自信はありません。またちょっとした例えばゲートが変わるなどの英語の放送もそうです。早く情報を正しくつかむことで、無駄な労力を使わなくて済みますし、飛行機の乗り遅れも予防できます。
英語をマスターすることで、様々な面で行動が容易くなり、安心感が増します。

最後に、生活全般の豊かさについて。
私の30年来の友人にアメリカ人女性がいます。親友の域に入ると思います。英語ができなかったら、帰国した後は交流も途絶えていたと思います。毎年彼女を訪ねて渡米し、一緒に過ごします。彼女を通じてアメリカでの人間関係も拡がります。これは、留学したりホストファミリーにお世話になったことのある人には共通の経験かもしれません。

英語ができると、読める良本の数は激増します。日本では入手できず翻訳されていない本にもたくさんの良書があり、本当に感動する小説や実話があります。
こういった日本では未発掘の良書をいつか翻訳したいと思っています。この先の長い人生で、ジャーナリズムと英語の知識を活かしたいと思います。

今回は、通訳の枠を超えて、なぜ島国日本に英語が必要なのかを自分の体験を踏まえて書きました。
なぜ、英語を勉強するのか。
英語はよりよい未来のための知識を増やし、感動を増やすために勉強を続けるものだと、私は考えています。

相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

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