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相田倫千先生のコラム 『英語をキャリアとして一生続けていく』 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学でジャーナリズムを学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として、主に半導体、産業分野のエキスパートとして活躍中。

第5回:通訳になりたての頃の勉強法

いよいよゴールデンウイークですね。皆さま、楽しくお過ごしのことと思います。私はずっと中東の国へ出張で、GWが終わるころ、帰国することとなります。宗教色濃い国への渡航なので、色々と気をつかいますね。でも日本とまったく違う文化圏に行くことは、いつもとても楽しみです。イランへ行ったときには、黒いベールで顔を隠しましたが、お化粧をしなくてもよかったので、実はラクだったのです(笑)。朝の支度が短くて済みますから。

今回のテーマは、「通訳学校を卒業したのちの、駆け出し通訳のころの勉強法」です。実はこれが一番難しいテーマかも知れません。これという勉強法を定めるのが難しい時期であると言えます。

なぜかというと、専門分野が決まっていない、どんな分野の仕事が来るかわからない、でもある程度こなさないとクレームが出るという時期だからなのです。登録したエージェントによって来る仕事の分野は違います。まずは、自分のエージェントがどの分野で強いか?ということをリサーチします。一番の近道は、営業担当に聞くことです。

私が駆け出し通訳だった20年前は、コンスタントに仕事が来る分野といえば、製鉄、自動車でした。そして今ではスマートフォンになってしまった携帯のことを、当時は「移動電話」と呼んでいました。ITバブルの気配があった、そういう時代でした。

ここでまず気をつけてもらいたいのは、通訳学校を出たからといって英語の研鑽が要らなくなるほど英語力が高くなったということではないということです。学生としては十分な力がついたので、仕事をすることはできますよという段階なだけです。ですからプロとなってからも、継続してリスニング、読解、訳出の練習をする必要があります。フリーランスなら、これらは仕事がないときに継続的にする作業です。会社へ勤めている場合でしたら、土日にすることです。

私の場合はフリーランスで始めたので、仕事がないときは、朝起きて英字新聞の勉強(本コラム第二回でも紹介した、冠詞、動詞などに色ペンで印をつける作業を行います)、衛星放送またはCNNでリスニングと訳出の練習、そして専門分野に選んだものについては、関連する本を買ってきて、日英ともに読破します。その際、ノートを2冊作りました一冊は英単語を記入し、もう一冊は、その用語に対する技術的または用語的説明を自分で書き記します。そしてその単語が出てきた文章をまる写しします。これだけでもう午後3時頃になっていまいますね。

その後ですが、本(ベストセラ―など)をインターネットで買って、その本の内容を吹きこんだCDのリスニングを行います。テレビのニュース英語だけではテーマが偏りますから、スピーチなどを題材として通訳訓練を自分でするのです。本とCDセットのこの教材は、通訳学校の授業の代わりですから、必ず原書を買って、それの吹きこみ版のCDをペアで購入してください。アマゾンなどで検索すると大体の本はCD版も出ています。その後、単語の整理、などなど。これらを粛々と続けることが大切です。

仕事が入ったときの勉強パターンはどうでしょうか。まずは依頼の来たもの、分野と依頼主について全力で調べます。資料が出ていれば、それに関連することをネットでとことん検索して調べます。通訳で担当するスピーカーが有名な方であれば、その方が書いた論文などが載っている場合もありますので、ダウンロードできる場合はそれをプリントアウトして全て訳します。人間の考えはそうそう変わるものではありませんから、その人の思考原理がわかれば大体何を言っているかはわかるはずなのです。

また資料などに出てくる専門用語が分からない場合は、言葉から全体像を追っていきます。例えばITなどですが、自分の場合、一つの言葉から始まって結局通信プロトコールまで調べることになりましたが、それはそういうものなのです。新人の頃は、とにかく全てが知らないことばかりなのでベストを尽くすしかありません。

仕事の勉強の場合ですが、分野ごとにノートを作りましょう。パソコンへデータとして持っておくのも良いでしょう。私はアナログ人間なので、やはりノートを利用しています。仕事が終わったら、上手く訳せなかったところ、もっと良い訳があったところなど、反省点を紙に書き出します。これを私は、「自己反省会」と呼んでいます。その中で残したい内容は、ノートへ書いておくのです。次回の仕事のパフォーマンスが倍良くなっているようにしたいからです。その知識や反省点が後のお仕事での財産となります。

また意外に重要なのは、そのクライアントにまつわるあらゆる情報です。

最寄りの駅はどこで、どの出口から出たら一番アクセスが良いか。朝ごはんを食べるところはあったか?コンビニは?昼ごはんは出たか、または食べに行ったか?外食した場合は、まわりにあったレストラン情報を残しておきます。その案件の担当者はどのような方だったのか?会議またはセミナーの雰囲気はどのようなものであったか?時間通りに終わったか?その時のパートナーの方はどのような方だったのか?などです。

これらは次回また依頼されたときにとても役立つ情報なのです。朝ごはんが食べる場所があるかどうか、これは私にとっては重要なのです。通訳は絶対に遅刻は許されないので、私は現場へは早く着くように出かけます。そして昼休憩も、会議によっては、遅くなることも多々あります。パフォーマンスを維持しつつ元気に通訳するためには、朝ごはんからエネルギーを摂ることが必要です。仕事の環境を整えるという意味でも、このような情報も大切だと思います。

仕事が入った場合、私は1週間前から調べを始めて、余裕をもって行きます。一週間を切る依頼などの急な仕事の場合は、直前の夜遅くまで調べることも多いので、健康管理はとても重要です。新人の頃は、毎日詰めて仕事をとることはおススメしません。精度が安定するまでは、しっかりと調べてこれ以上はできないと自信をもって臨めるようにする方が大切だと思います。もちろん、1か所からの依頼が1週間続くという仕事ならかまいません。

以上が新人の頃の生活でした。
バブルの名残時期だったので、本当に毎日忙しく、仕事、勉強に励んでいました。でも一番勉強がしづらい時期でもありました。今と違って知識も浅いし、「自分が絶対自信を持てる分野」というものが確立されていなかったからです。これにはやはり年数がかかりますね。でも、どんな通訳のベテランの方でも、こういう新人の時期を乗り越えてきたのです。

黎明の時期を経て、一人前の通訳になるのだと思います。

かく言う私も、まだまだ修行の身です。ここで筆を置いて、中東出張の準備をしましょうか。

次回は、ちょっとお仕事や勉強から離れて「子育てとの両立」をお話しましょう。家族との関わり方も仕事のステージと関係します。
角度を変えてコラムを書いてみたいと思います。

それでは、地球の反対側へ行ってきます。
皆さまお元気でお過ごしください。

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