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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

前回のコラムでもお話ししましたが、私は5年ほどアメリカ・ロサンゼルスで生活をしていた事があり、その際の経験が今の翻訳者としての基礎を形作ったと言っても過言ではありません。アメリカに渡って間もない頃はとにかく新しい環境に慣れるのに必死な毎日。驚きや発見の連続でした。まず一刻も早くクリアすべし!と急かされたのが「運転免許の取得」。車無くしては生活が成り立たないという世界でしたから、筆記試験・実技試験の勉強にいそしみました。当時ようやく日本語に翻訳された筆記試験問題も手に入るようになった頃で、知人にその問題を見せてもらったら…日本語なのに、い、意味が分からない(笑)。かなり適当に翻訳されたと思われ、英語での問題の方が分かりやすい、と迷わず英語で受験したという不思議な事態も発生しました。実技では、やはり教官とのコミュニケーションが大事。ロスという地域性からも、メキシコ系アメリカ人その他さまざまな人種の教官がいらして、発音に癖があるなど意思疎通が思うようにはかれず練習中は戸惑うこともありました。

ただ、徐々に生活に慣れて行くにつれて、日本に居ながらにして学習していた、いわば「机上の英語」とは全く異なる「生きた英語」への取り込み方が重要であることを痛感したのです。特に、その後大学院での課程を修得して行く上で、話す事・聞く事、そして書く事・読む事、全てのバランスがいかに大切であるか実感しました。話し言葉には勿論、その時その時の現地における独特な表現もあり、一方で書き言葉はある程度ルールやスタイルが求められます。普段の生活ではスモールトークや友人等との日常会話などの口語英語が主ですが、大学院ではアカデミックかつフォーマルな英語のライティングが求められつつ、プレゼン等では和やかに場を盛り上げるトークを交えながらもしっかりと話をまとめ論理性を保つなど、要求される能力が多岐にわたっていました。自信を無くしては、慕っていた教授の部屋に入り浸り(笑)、「明日のプレゼンが恐い~」と泣きついてみたり、ああでもないこうでもないと、今思えば面倒だったろうなと思う位に他愛もない話を聞いてもらっていました(笑)。

同課程では英語が母国語でない生徒への英語教授法について色々学んだ訳ですが、そこで感じたのは、アメリカでの生活を始めたばかりの当時の自分も含め、特に日本人は「間違えることを恐れ」てとにかく発言しない、そして日本人同士で群れをなし(笑)、目立たぬよう、失敗しないよう、皆と同じように行動する傾向が語学力上達を邪魔しているのではないかということでした。私も最初は失敗を恐れていました。でも徐々に、折角の機会を無駄にするのはもったいない!と思うようになり、後悔しないようやれることは積極的にやってみる、そして間違えても気にしない、ただ間違えた事は繰り返さない、という姿勢が自然に出来上がった気がします。日本人としては少し異質だったかもしれません(笑)!?

同課程でも学んだ事ですが、語学習得に際し、話す・聞く能力と書く・読む能力の向上にはそれぞれ異なる要素が必要となります。勿論、最終的にそれらの力が互いに影響を及ぼし合って全てをマスター出来る場合も多いですが、第二・第三外国語の習得については特に、それが困難な場合が多々あります。ただ、これを踏まえて、ライティングには何より文法を含む基本的英語力が必要であること、一方で会話などでは、究極論ではありますが、まずは文法をあまり意識しないで言葉にして行く作業が必要であることなど、脳の切り替えがポイントとなる旨を意識することが重要だと感じました。

その後ISSで「翻訳」英語を学ぶにつれ、翻訳とは、書面を通じているものの、実にさまざまな背景やシーン、そして観客が設定された舞台のようなものであると実感しました。通訳者もそうであると思いますが、翻訳者もいわば黒子です。筆者の伝えたい事をまず正確に把握し、その伝え方も適切に判断し、ふさわしい「セリフ」や「ナレーション」をあてはめ全体の構成を整える…この一連の作業を的確に行うため、英語力・日本語力は勿論、その他細かいコツなどを自分なりに身に付け、いざ独り立ちしてみた時、最初は本当に不安でした(苦笑)。授業のように他の受講生たちの考え方や先生の解説を参考にすることは出来ない状況で、どこまで悩んでも最後は自分で何もかも決めて責任を取らなくてはならないプレッシャー。プロの責任と自覚が芽生えた瞬間でした。このプレッシャーの克服の仕方は人それぞれかもしれませんが、基本的な英語力や日本語力を磨き上げるのはまずもって前提条件。その上で、お仕事で英語に関わっていてもいなくても、日々さまざまな事に興味を持って知識・情報を吸収し、自分の英語・日本語表現を増やすことが大切だと思います。
それでは、根本的に「翻訳者」に必要な要素ってあるのでしょうか?次回はこのテーマについてお話ししてみたいと思います。

最終回:翻訳愛

第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識

第22回:的確な訳語の選択力をつける

第21回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その2

第20回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その1

第19回:生きた表現 -「新語」にからめて

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

第17回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈 その2.

第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈

第15回:翻訳不可能論!?

第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え

第13回:ご挨拶 & 翻訳者の日常とは?

第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ

第11回:翻訳は「裏方」に徹する仕事 ─ その極意と楽しさ

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

第9回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?

第7回:「意訳」と「誤訳」

第6回:日々のちょっとした積み重ね ─ 学習法のヒント

第5回:翻訳力アップのためのポイント その2

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

第1回:ご挨拶。

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