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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

翻訳を行う上で基礎となる大切なポイントは、私自身が翻訳を勉強していた際に、また翻訳者となってみて数多く実感するに至っていますが、今回は「筆者の意図の忠実な再現」、「視点の定め方」と「トーンの統一」、「印象に残らない文章の作り方」などについてお話してみたいと思います。

「筆者の意図の忠実な再現」
翻訳者は、作家などとは違い、既に存在する原文を基にして、その筆者のいわば異言語での代弁者となり切る力が求められると思います。その意味で必要となるのが原文の読解力、その力を生かした、原文のジャンルやスタイルを考慮に入れた正確な分析、そして最終的な筆者の意図やスタンスの的確な理解です。原文の読解力に関しては、原文が英語であれば、しっかりと文法構造を把握し、適切な訳語の選択を確実に行うことが大前提です。原文が日本語であれば、日本語の意味を正しく把握し(表面的なものだけでなく、場合によっては隠れている必要な情報・意味までも補って)、英語らしい表現と構成を考えながら、英文として成立させる(当たり前のことなのですが、これがなかなか完璧にできない方が多いのが現状です…)ことが大事です。日英で注意すべきなのは「日本語の表面だけなぞった意味の通らない」「文法が滅茶苦茶な」文の羅列とならないことです。英日・日英共に一文一文を訳すのに精いっぱいになってしまうと、全体の意味が分からない、ポイントが伝わらない文章、つまり結果として筆者が意図する要素が何一つ伝わらない誤訳となってしまいます。そのためにも、最初は1パラグラフ程度の文章でも構いません、各文を正確にとらえ、そして意味のまとまりとしての全体に目を向け、論理的つながりが生きる文の組み立て方の練習を心掛けると良いと思います。

「視点の定め方」と「語調(トーン)の統一」
筆者が伝えたい意図・内容が把握できたら、視点を定め、語調(トーン)を統一します。筆者がターゲットとしている読者は誰なのか、文章の目的・背景・設定はどのようなものか、どのような文体にすべきなのか、などを考慮します。視点については、筆者の意図やスタンスに合わせ、その筆者に特有な文章表現を選ぶ訳ですが、最初から決め打ちせず、ある程度訳出を進めて行ってから全体を統一して行くのも一つの手かと思います。こうした筆者の語り口調に近付ける方法、その他、一定の様式に当てはめて中立的立場でまとめて行く方法等が考えられますが、いずれにしても、例えば雑誌や新聞等からさまざまな分野のコラムや記事をピックアップし、パターン別に参考にする癖を付けておくと対応がしやすくなると思います。視点やトーンが定まれば自然と訳語・訳のあて方も決まって(そのためには表現力の幅も必要となって来ますが)、いわば役者として立つ位置がブレないようになり、一貫して文章の完成度、説得力が上がります。

「印象に残らない文章の作り方」
ISSで初めて翻訳の学習というものに触れた時、先生のおっしゃった「印象に残らない文章に仕上げましょう」という言葉に衝撃を受けました(笑) 要するに、私たちが普段目にしている文章のほとんどは「印象に残らない」、つまり、読み進めているうちに何らかの理由で「ん?」と違和感を覚え、読み直してしまうような引っ掛かるポイントの多い文は、例えば主張や表現が強かったり、逆に曖昧だったり、分かりにくかったり、いわゆる万人受けする文章ではないということなのです。こうお話すると、どうしたらそのチェックができるのか、とお思いになるかもしれません。確かに最初は、自分で作った文章を第三者の目線で評価するのは難しいと言えます。出来れば誰か他の人に読んでもらい、どこが不自然か、何が引っ掛かるのか指摘してもらうと勉強になるかと思います。そしてだんだんと自分でケースバイケースでの言い回しや言い換えのバリエーションなどを意識して蓄積し、自己チェックが出来るよう訓練する必要があると言えます。その意味では、翻訳者は「英語を操れる作家・ライター」であるべきだとも学びましたね。読者にとって分かりやすく興味深い日本語・英語の文章を安定して生み出す意識を常に持つことは大事だと思います。

次回も引き続き、翻訳力アップのためのポイントについてお話できればと思います。

最終回:翻訳愛

第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識

第22回:的確な訳語の選択力をつける

第21回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その2

第20回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その1

第19回:生きた表現 -「新語」にからめて

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

第17回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈 その2.

第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈

第15回:翻訳不可能論!?

第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え

第13回:ご挨拶 & 翻訳者の日常とは?

第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ

第11回:翻訳は「裏方」に徹する仕事 ─ その極意と楽しさ

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

第9回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?

第7回:「意訳」と「誤訳」

第6回:日々のちょっとした積み重ね ─ 学習法のヒント

第5回:翻訳力アップのためのポイント その2

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

第1回:ご挨拶。

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