Tips/コラム
USEFUL INFO
プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?
これまでにも、そして前回「意訳」と「誤訳」というテーマでお話させていただいた際にも、何度となく触れている文法の大切さ。今回はこのテーマについて掘り下げてみたいと思います。
私が翻訳の学習をスタートしたばかりの頃は、さまざまなジャンルの、特にあまり日常では接する機会の無いような種類の文章を訳すことが楽しくて、ますます翻訳の世界にのめり込んで行く自分を発見する一方でしたが、先生からは「各文脈における、より適切な言葉の選択に工夫を!」「とにかく日本語表現の幅を広げるよう意識を!」といったご指摘がありました。特に英日では、原文を頭では理解できるのになかなか思うような日本語に出来ずもどかしさを感じたり、日英では、言外の意味の多い、また何が言いたいのかはっきりしない(時に意味不明に近い!?)原文日本語の理解の段階で苦しんだり…、翻訳の奥深さを実感した訳です。ただ、その頃を振り返ると、例えば単なる「英文解釈」としてはこうなるが構造的に分割できるこの部分を前に持って来て論理的つながりを追求すると良い、など構成や表現のご指摘を多く頂いたものの、幸いにも文法や構文把握についてご指摘を受けることはあまり無かった記憶があるのです。当時先生からも、(当たり前のことだけれど)文法や構文の把握がしっかりしていれば、あとは努力でいくらでも伸ばせる表現力や調査力などを磨くのみとのお話を伺いましたが、今でもなるほど、と思います。
私はいわゆる文法オタクと申しますか(笑)中学の頃から英語が本格的に好きになり、高校では主に受験勉強のためということもありましたが、とにかく文法を徹底的に勉強したおかげで(そして私はこの文法学習が大好きなのでした)、文法力が鍛えられました。そして、このことによって、僭越ながら翻訳者としてお仕事をさせていただくに至った道のりを、自分がいかにスムーズに歩いて来ることができたか、改めてひしひしと感じるのです。
実は私が、文法知識、そしてより正確に文章を読解する力に自信が持てるようになったのは、高校での厳しく、また少々ユニークな受験対策勉強による所が大きかったと言えます。英語の授業は文法、読解など細かく内容を分けて行われ、文法については学校で指定された厚さ約3cmの難解な文法書を使用し、そのすべてが学期ごとの試験だけでなくほぼ毎月行われる実力テストの範囲とも言え、とにかく隅から隅まで読みあさった記憶があります(笑)。読解については、これまた難構文、ひっかけ等の多い長文をこれでもかと言う位読まされました…。その際に心掛けるよう言われたのが「まず辞書を一切引くな(受験では引けないので)。分からない単語については悩まず、飛ばして読め。分からない単語は全体のほんの一部分。分かる材料だけで十分全体像を把握できる。そこから分からない単語の意味も推理できる」ということ。このスタイルは、そのまま翻訳に適用できる訳ではありません。受験用対策とは異なり、翻訳では勿論辞書を活用し、調査を十分に行う必要がありますが、訳していく過程でどうしても意味が分からない、または訳が決まらないといった語句も出て来ます。こうした場合、今お話しした読解法を生かせれば、全体像を把握し、その視点から細部のモヤモヤしたパーツの訳あてが上手に決まることもあります。そしてその大前提となるのが揺るぎない文法力、という訳です。
「英語力」って何だろう?と時々思います(笑)翻訳に関しては、とにかく文法!が基本ですね…。経験上、TOEICで満点近く迄スコアを上げなくちゃ、その他とにかく色々な資格を取らなくちゃ、といったことは翻訳の舞台ではこだわる必要が無いように感じます(個人的意見かもしれませんが)。ただとにかく文法力と表現力・構成力が大切な土台となることは間違いありません。翻訳を行う上では、最近では英日の場合、原文が英語として必ずしも正しい構造を呈しているとは限らないケースが少なくありません。このような場合、元々正しくない英語だけれど、筆者の言いたい事を正確に汲み取るためには適切な文法知識を補って解釈しなくてはならないのです。(このお話はまた別の機会に出来れば、と思います。)よくISSインスティテュートの受講生の方から「文法嫌いです」「文法苦手です」という声を聞きますが、是非パズルやゲームといった感覚でもいいので(笑)興味を持って極めていただきたいな、と願ってやみません。皆で文法大好きオタクになりましょう!(笑)
仕事を探す
最新のお仕事情報