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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

いきなり余談的なお話からスタートしてしまいますが、夜型の私は一日の翻訳の仕事が終わるのが深夜になることも多々あり、そのまま眠りにつこうとしても頭がフル回転していた直後でもあってなかなか寝付けない時には、自分なりのリセットタイムを経てから眠るようにしています。このリセット作業に不可欠なのが、実は海外ドラマ。特に科学捜査ものや検屍官もの。内容的に、寝る前に見るものとしてどうなの?と良く言われますが(血や悲鳴が頻繁に登場しますからね・・・(苦笑))私にとってはこうしたドラマを見てスリリングな展開を楽しむ時間が究極のリラックスタイムとなっています。そこでいつも引き込まれてしまうのが映像翻訳の奥の深さ。英語を聞きながら字幕を見ていると、なるほど~!と感動し、面白いなあ、とワクワクしてしまうのです。何でもない会話、例えばごくごく簡単な例で言えば、 “You have some memory.” というセリフが「記憶力がいいね」と翻訳されていて、何気なくsomeが効いてるなあ、someって何でもないように見えて訳すのが難しい時ってあるよなあ、とか・・・そして、英語に関わる講師という立場から考えてみると、思わず「こういう、いわば生きた表現の工夫って普通の英語の授業だけでは分からないし、身につかないことも多いよなあ」と感じてしまうのです。だからこそ、翻訳の作業や学習って面白いし、柔軟さが重要なんだな、とも思うのですが。

こうした柔軟さを養う上で頼りになり、正しい感覚を身につけるための味方となってくれるもの、これは以前にも少しお話ししたかとは思いますが、そのうちの一つとして挙げられるのは、やはり辞書であると思います。ただ、言葉は日々進化し、変化を遂げて行きます。辞書にも色々なものがあり、随時改訂版が登場します。こう思うと、その辞書自体を作成している方々のお仕事って物凄く大変なんだろうなと頭が下がるのです。

随分前の事になりますが、三浦しをんさんの「舟を編む」を読み、その辞書を作り上げていく世界にどっぷりはまり込んでしまいました。辞書というものの有難さを痛感し、敬意の念を新たにしたものです。そしてつい先日、この「舟を編む」の世界をテーマにした番組「舟を編む人たち」がNHK教育テレビで放送されていたのを拝見しました。3年後に予定されている大辞林の刊行に向け、奮闘していらっしゃる方々のお話です。番組内で密着取材されていたそのうちのお一人については、そのとにかく何事も調べるクセというか、姿勢といったものの定着っぷりが半端ない!淡々と作業を進めていく姿には威厳すら漂っています。三浦さんが「舟を編む」に込めた「辞書は言葉の海を渡る舟」といった意味、同じく番組内で紹介されていた、「バーゲン一回分の値段で、一生使えるお買い得な品」という、向田邦子さんの「辞書」についての名言など、確かにその通りだなと思って見入っていました。ただ、先程も申し上げた通り、言葉は変化しますし、また年齢や性別によってもその使われ方は異なります。番組ではこれに関連し、辞書に載せる言葉についての興味深いエピソードを紹介していました。それは、「盛る」という言葉についての意見調査にまつわるお話。例えば、大げさにする、といった意味での「話を盛る」などの表現は一般的に受け入れられているものの、「髪を盛る」については少々古い!?表現として、40代、50代以上の方々がよく使う、または違和感がないと回答していたのに対し「メイクを盛る」などの表現は若い世代のみに使用されている、といった年齢による違いが確かに存在する事実を、辞書の語の説明や例文などにどう生かすか、といったことが取り上げられていて、皆さんが何度も何度もミーティング・検討を繰り返していらっしゃるのを拝見し、本当に大変な作業をなさっているのだな、と身が引き締まる思いでした。

日々、言葉へのこだわりを大事にしている方々が作り上げる、言葉の海を渡る舟 - 辞書。日本語についても、英語についても、改めて言葉というものを深く追求するお仕事に関わることができて光栄であると感じ、これからも日々精進だと、思いを新たにしました。

最終回:翻訳愛

第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識

第22回:的確な訳語の選択力をつける

第21回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その2

第20回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その1

第19回:生きた表現 -「新語」にからめて

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

第17回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈 その2.

第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈

第15回:翻訳不可能論!?

第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え

第13回:ご挨拶 & 翻訳者の日常とは?

第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ

第11回:翻訳は「裏方」に徹する仕事 ─ その極意と楽しさ

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

第9回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?

第7回:「意訳」と「誤訳」

第6回:日々のちょっとした積み重ね ─ 学習法のヒント

第5回:翻訳力アップのためのポイント その2

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

第1回:ご挨拶。

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