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プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識
以前、英語のネイティブスピーカーで日本語も堪能、その力を生かし通訳や翻訳などのお仕事を手掛ける方々とお話しする機会がありました。彼らは口をそろえて「日本語の微妙なニュアンスはとらえるのも表現するのも難しい」とおっしゃいます。確かにそうですよね。英日では、勿論ネイティブなので英語の意味は正確に理解できても、文脈ごとの適切な日本語表現の選択は容易ではありませんし、丁寧語・尊敬語・謙譲語など日本独特の言語的表現である敬語も組み入れなくてはならなかったり、また日英では、主語がなかったり、暗黙の了解事項や雰囲気で分かることは省略されていたりと、隠れた意味などを補いながらの訳出はとても骨が折れる作業です。日本語には、ひらがな、カタカナ、漢字と、使いこなすべき文字も多く、漢字などは特にその意味が似通ったものが多く存在し、熟語になればなおさら、日本人でさえ100%正しく使い分けることができるかというと、自信のない方も多いのではないかと思います。
翻訳の総合学習を始めた頃から特に、この文脈ではどんな表現を用いるのがベストだろうか、と考えた時、例えば主語(名詞)が○○する、という場合にはこの「○○する」の意味を持つ動詞としてあてはまる候補の中でこの名詞と一番相性が良いのは何か、一番自然で良く使われているものは何か、といった調査(その他、動詞と目的語の相性などのリサーチ)が重要だと思い、その上でさまざまな類語辞典やコロケーション(単語と単語の自然なつながり・良く使用される組み合せ)に関する本などを参考にしてきました。類語やコロケーションへの意識を高めると、表現の幅が広がり、的確な表現の選択力がアップすると思います。
例えば・・・
日本語の「発展」、「発達」、「進展」、「進歩」、「進化」、これらの語について検討してみましょう。いずれも何らかの物事が進み行くことを示す語ですが、
→「発展」、「発達」、「進歩」については、文化や学問、技術などの分野において、物事が進んで以前呈していた状態・状況よりも上の段階に入ることを示す。
その上で、
・「発展」は、物事の示す勢いなどが盛んになる、栄える、伸び広がる、活躍するなどの意味にも使われる。ひいては飲酒、異性関係などにおいて手広く盛んに活動する、勢いを伸ばす、といった意味でも用いられる(例:なかなかの発展家だ)
・「発達」は、育って大きくなることで完全な状態・方向に近づくこと、また規模がより大きくなることで、文明、体の器官、台風・高低気圧などなどについて使用される例が多い。
・一方、「進展」は、望まれる方向へとさらに前進する意味に用いられる。時が経つにつれて状態や状況が変化したり、新たな物事の情勢・局面を迎えたりすることを意味し、進んで行く方向に関してはその良し悪しを問わないことも。
・「進化」は、生物の機能や形態が長大な年月の間に次第に変化し、異なる種へと発展していくことで(例:人類の進化)、さらに物事が徐々に発達・向上していくことも示す。
といった意味や用法の違いが見られます。
ここにコロケーションを絡めて見てみると、
・その事件は予期せぬ方向へ
発展 / 進展 ○ した。
発達 / 進歩 ? した。
・××の捜査は
進展 ○ を見せた。
発達 / 発展 / 進歩 ? を見せた。
などといった「合う、合わない」の微妙な差が生まれてくることが分かります。
このような感覚を磨くべく、読書の秋、辞書を読み物として活用し、ご自分の知識を増やしてみてはいかがでしょうか?