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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

和田泰治先生のコラム 『通訳歳時記』 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

第3回:卯月

<風立てば海山さわぐ卯月かな(鈴木真砂女)>

皆さんこんにちは。第3回目のコラムです。まずは近況から。

先月からひと月が経過し、新型コロナウイルスをめぐる状況は刻一刻と不透明さを増しながら我々通訳者の生活にも直撃しています。もともと3月は年度末ということもあり、一年の中でも忙しい時期なので昨年は28件の業務がありましたが、今年は8件のみでした。

イベントや国際会議の中止、延期、外国人の来日中止に伴い事前のブッキングはほぼ全てキャンセル、4月の新規業務の問い合わせもゼロという状況です。2011年の大震災の後は、空いている時間に美術館や博物館、観劇、寄席などに足を運んでおりましたが、今回はそれもままなりません。しかしその一方、このような時期だからこそ、家族とゆっくり時間を過ごし、また腰を落ち着けてこれまで買い溜めてきた大量の本を読んだり、いつもはなかなかできない勉強をするには絶好の機会です。これはこれでかけがえのない充実した毎日だと思います。

さて、そんな状況でも4月に一件だけ確定している通訳業務があります。これがまさに今月のテーマです。それは企業の決算発表です。

日本は4月から3月という会計年度を採用している企業が多く、前年度通期の決算の説明会は4月から5月にかけて集中して実施されます。決算発表自体は四半期毎にも実施されますが、それぞれの意味合いを持っています。

第1四半期の発表は年度序盤の業績、第2四半期の発表は年度上半期の状況の確認、第3四半期の発表は、四半期というよりも3か月先の当該年度全体の最終的な業績見通しが焦点になります。

そして4月や5月に実施される決算発表は、前年度通期の最終的な実績の報告と同時に、新年度の戦略や見通しなども合わせて発表されるため、特別に重要な意味を持っています。

外国人投資家の持ち株比率が高まるにつれ、こうした決算発表も同時通訳を入れて二か国語で配信するケースが増えています。

決算発表は、まず社長など担当役員による業績のプレゼンテーションを20分から30分くらい行い、続いて会場からの質問を受けて質疑応答へと進んでゆくのが通常です。対象はアナリストや投資家、メディアなどです。同時通訳は録音のうえ企業のウェブページで公開されることが多くなっています。この同時通訳には大きく分けて以下のようなパターンがあります。

1. <会場にてライブで同時通訳・その場で録音>
これは通訳者にとっては録り直し一切無しの一発勝負です。音楽ファンに説明するなら、アナログレコードのレコーディングをダイレクトカッティングで一発録音する感じです。ウェブで公開されると少なくとも半年から一年間はそのまま公開されることになりますので、現場での緊張感はかなりのものです。

2. <会場にてライブで同時通訳・その場で録音・修正箇所を録り直し>
いったんライブで録音した後に、通訳者、クライアント、PRエージェント担当者など関係者一同が残ってあらためて聴き直し、その場で修正部分を録り直します。ケースバイケースではありますが、場合によっては修正箇所や修正するワーディングなどを巡って侃々諤々、長時間になることもあります。

3. <発表当日の夜に資料を受領し準備・翌日スタジオで通訳部分を収録>
このパターンが最も多いのではないかと思います。決算発表当日の原稿や音声を発表後の夜に受け取って準備します。音声に合わせて同時通訳を読み合わせて練習する、あるいは原稿をもとにしてサイトトランスレーションで準備する場合と、音声や原稿をもとに完全な読み原稿を作成するかのいずれかになります。読み原稿を作成するのはかなり時間もかかって大変です。原稿づくりが苦手な小生の場合は、数時間、場合によっては徹夜に近い作業になることもあります。ただ、一旦原稿さえ作ってしまえば、翌日の本番はまず一発でOKになります。

ほぼ、以上のいずれかのパターンになりますが、まれに1と2の中間のようなパターンで、決算発表進行時は現場で見学だけして、その後別室で1時間くらい準備をしてから録音ということもあります。

当日ライブで通訳するパターンの場合、通訳に事前に提供される発表前の情報はすべてインサイダー情報と考えて細心の注意を払う必要があります。もう随分昔のことになりますが、当日発表する重要な業務提携がサプライズであり、最高機密事項だったということもあり、事前のブリーフィングでは一切説明が無かったばかりか、開始30分前から通訳ブースの外へすら出して貰えなかったこともありました。

さて、今月は以上です。来月は五月です。日を追うごとに温かさが増し、初夏の気配が近づく大好きな季節です。(競馬ファンには皐月賞もあります!)その時までにはまた少しでも明るく活気のある毎日が日本にも戻ってくれていることを願っています。

それではまた。ごきげんよう!

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