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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

和田泰治先生のコラム 『通訳歳時記』 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

第7回:葉月

<ねむる間に葉月過ぎるか盆の月(飯田蛇笏)>

 

皆さんこんにちは。今月もまずは近況から。

 

7月に入ってまた新規感染者が急増しつつあります。東京の一日の感染者数は50人、100人、200人と統計学的推計の通りに上昇し、このまま何の対策も取られなければ8月中に1000人を超えるとも言われています。地方にもじわじわと波及している気配が見られ、どうなってしまうのかと不安は尽きません。

 

外国からの渡航者が制限されているため通訳需要も相変わらず例年の半分以下で、すべてオンラインでの通訳です。在宅で通訳するケースと、クライアント先に出向いて外国のスピーカーとオンラインで繋ぐケースが半々くらいです。加えて今月は決算発表が2件ありました。

 

リモートでの通訳もいろいろなパターンで実施されています。特に同時通訳の場合は、リモート同時通訳に特化した特殊なシステムも開発されてはいるのですが、その一方で、もともとは通常のリモート会議のみを想定して開発されたシスコシステムズのWebexやマイクロソフトのteamsを2回線、あるいは3回線のリンクを別々のパソコンで開き、それぞれを日本語、英語のチャネルとして利用するような「力技」も多くなってきました。

 

この場合、通訳エージェントのオフィス内にいつもの同時通訳用機材を持ち込んでパソコンと繋ぐような設定をしてくれる場合は良いのですが、自宅で同じことをやろうとするとなかなかの手間です。2台以上のパソコンとそれぞれに接続する複数の外付けマイク、ヘッドホンアンプやスピーカー、パソコンの切り替え器などの機材を購入し、様々な状況に対応できるよう在宅の環境を整えています。因みに何かと話題のZoomには通訳用に複数チャネルを設定できる機能が搭載されています。まだ試験的な段階でもあり使い勝手は良くありませんが、今後改善されればもっと簡単に在宅環境でも同時通訳ができるようになるのではないかと期待しています。

 

さて、今月の本題は、ちょっと趣向を変えて小道具編にしたいと思います。

 

何でも実力の無い者ほど道具にこだわるものですが、私もその例に漏れず、下手な通訳を少しでも道具で何とかしようとこの二十有余年、様々な小道具を調達して参りました。今回はそのいくつかをご紹介致します。

 

先ずはどんな通訳者の皆さんも大体お持ちの定番小道具から。

 

①イヤホン
かねてオーディオ用で愛用していたデンマークのメーカーBang&Olufsenのイヤホンを通訳の仕事でもそのまま使っています。このブランドのイヤホンは何故か通訳者の間で使用率が高く不思議に思っていましたが、噂によると、某大手エージェントのカリスマ通訳者の方がお使いになっていて、そこからそのエージェント出身の通訳者の間で広まったのだとか。通訳者が使うイヤホンは、自分の声もある程度外部から聞こえないとやり辛いので、携帯性も考慮してインナーイヤータイプを選んでいる方が多いと思います。

 

② タイマー
ペアワークの際にできるだけ正確に交替ができるように使うタイマーも大体どの通訳者の方も持っているアイテムだと思います。便利なのはカウントダウンで時間が来た時に光の点滅で知らせてくれるもの。通訳ブース内などは薄暗いので時間表示が見えにくいためです。音が出るタイプのものは消音設定ができない限り現場ではご法度です。最近はスマートフォンのタイマーアプリを利用している方も多いようです。

 

③ 双眼鏡
目の良い人には全く必要ありませんが小生には必要不可欠なのが、この双眼鏡です。同時通訳のブースは会場の最後方に設置されることがほとんどですが、多少広い部屋になると前方のスライドが全く読めません。相当の頻度で双眼鏡を利用しています。双眼鏡というのは中々に奥が深い製品で、単に倍率が高ければよいというわけではありません。倍率が高くなれば、それだけ視野が狭くなり、暗くなります。視野が狭くなるとスクリーン全体を一目で見ることができなくなってしまいます。通訳者が仕事で使用する場合のお薦めの倍率はズバリ5倍です。そしてメガネをかけている人にとって重要なのがアイレリーフです。目がどのくらいレンズから離れていて焦点が合うかという指標ですが、私は14mmのものを使っています。(余談ですが、仕事だけでなく、観劇、スポーツ鑑賞、美術館、そして競馬場でも大いに役立っています!)

 

④ ルーペ
目が悪いだけでなく、ついに還暦を迎えて老眼も辛くなってきた昨今、出番が急に増えてきたのがルーペです。もともとは、法務関連の仕事で大量の証拠資料の書類を読み合わせしなが通訳する際に必要になり購入したものですが、配布されたパワーポイントが1ページ4スライドで縮小印刷されものだった時なども便利です(最近は1ページ2スライドでも文字が読めなくなってきました。トホホ)。オンライン通訳の場合も、共有表示されたスライドの文字がパソコン上で読みにくいケースがあり、そんな時も役立ちます。ルーペと言っても名探偵のトレードマークのような丸い大きなものではなく、手帳サイズのシートタイプを持ち歩いています。(競馬新聞の細かいデータを読むのにも便利です!)

 

⑤ レーザーポインター
スピーカーがチャートや図、イラストなど視覚的な資料を多用してプレゼンテーションする場合や、パソコンのスクリーンを投影しながらのライブデモンストレーションの逐次通訳時に非常に役立つのがレーザーポインターです。逐次通訳の場合はスピーカーが話してから通訳をするまでに時差がありますので、あらためて図を説明するのに、どこの部分を説明しているのか言葉で説明しなければなりません。レーザーポインターがあれば「この○○は・・・・・」と指し示しながら通訳が出来るので便利です。

 

⑥ 卓上ライト
年に2、3度、「持ってて良かった!」と実感するのが卓上LEDライトです。当日でも会場でお願いすれば手元ライトは用意して頂けることが多いのですが、オフィス内の会議室で用意がない場合や、電源が無いという時もあります。万が一手元の資料が読めなかったり、ノートテイキングが出来ないということになると通訳に大きな支障が出ます。これまで何度も助けられました。

 

その他にも、電子辞書、パソコン、充電器、モバイルバッテリーなどを持ち歩いています。直接通訳とは関係ないのですが、折り畳み傘も常備していますし、移動時間や空いた時間帯に読む書籍も2冊くらい入れているのでバッグは相当な重量です。バッグも、これまでいろいろ試行錯誤した結果、大き目のバックパックに落ち着きました。小道具とは違いますが、通訳者にとってバッグもまた非常に大切なアイテムです。

 

さて、今月は以上です。これまで経験したことのない毎日が、いつ終わるともなく続いています。浮足立つこと無く、しっかりと自分の足元を見つめながら、今日もまた新たな一歩を踏み出してゆきましょう。

 

それでは皆さん、また来月お会いしましょう。
ごきげんよう。

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