Tips/コラム
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プロの視点
『Hocus Corpus』 コトバとの出会いで綴る通訳者の世界 和田泰治
第8回
“Goldilocks”
世界中がコロナ禍で右往左往するなか、昨年、今年と、主にアメリカの政治・経済の見通しについての複数のオンラインセミナーで
実際に通訳現場となったセミナーで使われていたのは、アメリカの新政権の経済運営に関して、現在のコロナ禍、ワクチン接種の進展やコロナ後も見据えた展開を議論する際に、
これまでの空前絶後の財政出動による支援策が景気過熱からインフレを誘発し、量的金融緩和の縮小時期(
While Davis is willing to buy into companies that are cutting dividends, his real focus is Goldilocks stocks, whose yields are neither too high nor too low.— David K. Randall
[Merriam-Webster]
そもそもの由来は19世紀中頃まで遡る童話です。様々な変遷を経て、現在では“Goldilocks and The Three Bears”(ゴルディロックスと三匹の熊)というタイトルで絵本も多数出版されています。
ご存知の方も多いと思いますが、
熊の一家はお父さん熊 “Big Great Bear”、お母さん熊 “Middle-sized Bear”、小熊 “Little Wee Bear”の三人家族(三匹家族?)です。朝ごはんにそれぞれお粥 “porridge”を作り、ちょうど食べ頃の熱さになるまで散歩に出かけていたのです。
お腹が空いていたゴルディロックスちゃんは三つの器を見つけると、一番大きな器のお粥を味見してみました。するととんでもなく熱くて食べられない、次に中くらいの器を味見すると、今度は冷め過ぎていて美味しくない、そこで最後に一番小さな器のお粥を食べてみると、熱すぎず、冷たすぎず、まさに適温!ということでこいつを平らげます。すると疲れていたゴルディロックスちゃん、椅子に腰かけて一休みしたいとあたりを見回します。するとそこには大、中、小、三脚の椅子があり、大きな椅子はクッションが硬過ぎ、中くらいの椅子は逆に柔らか過ぎ、結局小さい椅子が丁度良いので座って一休み。ついでに椅子を壊してしまいます。そうこうするうちに今度は眠たくなってきたのでベッドを探すと、やはり大中小と三つのベッドを見つけ、大から順番に全部試してから一番ぴったりサイズの小さいベッドで眠ります。
最後は寝ているところを帰宅した熊の一家に見つかり、驚いて一目散に逃げ出しましたとさ・・・というお話です。
大昔のオリジナルでは、忍び込んだのは少女ではなく老婆で、見つかった後には火にかけられたり水に落とされたりと「本当は怖い○○童話」的なものだったとの説もあるようです。
何れにしても、過大なもの、過小なものの中間に最も快適な状態があるとの意味で様々に使われています。経済や相場のような過熱と冷え込みの間の適温な状態を指すだけでなく、両極端な意見や立場の間で絶妙なバランスをとるという文脈でも使われるようです。
以下の記事は、デトロイトのローカルメディアの記事ですが、バイデン大統領が、環境重視派とデトロイトの自動車産業との板挟みの中、「10年以内に乗用車と軽トラックの新車の半数については温室効果ガス排出量をゼロとする」というどちらにも極端に振れない微妙な政策を提案したことについて書かれています。
[by Eric D. Lawrence, Detroit Free Press, August 5, 2021]
ヘッドラインの “No porridge or bears,……”なども、原作の童話を知っていれば迷わず理解できます。
何となく知っているからと何気なく聴いたり、使ったりしている言葉もいろいろ詳しく調べてみるとおもしろいものです。
さて、今回は以上です。次回までごきげんよう。
和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。
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