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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 デバイス(在宅通訳編) 和田泰治

第2回

デバイス(在宅通訳編)

皆さんこんにちは。今月の通訳現場探訪は先月に引き続き通訳者が使用しているデバイスについてですが、今回は在宅での通訳業務での利用機器とそのセッティングについてお話しいたします。

 

いろいろな通訳者の皆さんに在宅通訳時の使用機器、設定についてお伺いしましたがデバイスについては千差万別で、宅外の現場のように「タブレットかラップトップPCのどちらか一台」というような単純な結果ではありませんでした。何故かと言うと、在宅で通訳をする場合は通常宅外の会場であれば既に用意されている同時通訳ブースや、専用の機器類で構成された環境を出来得る限り再現しようとするため、どうしても複数の多様な機器が必要になるからです。

 

基本的にはパソコンやタブレットなどのコンピュータ系のデバイスを2台以上使用するというパターンがほとんどでした。この複数台の組み合わせも多種多様で、『WindowsのデスクトップPCとiPad』あるいは『Windows のデスクトップPCとWindowsのラップトップ PC』などの組み合わせが比較的多そうです。昔から自宅でパソコンを利用されている通訳者の方は、デスクトップPCについては古くから使っているWindowsをそのまま在宅通訳業務にもメインで利用されている方が多いからでしょう。2代目のサブデバイスについてはパソコンやタブレットではなくスマートフォンで充分という方もいました。MacのデスクトップPCとMac bookあるいはiPadだけという「コアなApple信者」的構成が少なかったのはちょっと意外でしたが、クラウドサービス等を活用すればWindows、Mac OSの機器が混在していても複数デバイス間で資料が共有できるようになったということも背景にあるようです。

 

さて、もう少し詳しく見てゆきたいのですが、在宅の機材環境は複雑なため、下手な文章では分かり難いと思います。かと言って、今回お話を伺った通訳者の皆さんに自分の部屋の写真を送って下さいともお願いできませんでしたので、まずは筆者自身の自宅環境の写真をご覧下さい。これをベンチマークとして説明させて頂きます。

  

構成のメインで使っているのがWindowsのデスクトップPC(Dell)です。中央にあるモニターの上部に小型の外付けウェブカメラを据え付けています。モニターの左右両サイドにアクティブスピーカーを配置しています。右側の本棚前にあるのがサブデバイスとして使っているWindowsのラップトップPC(Lenovo)です。真ん中手前にあるのはPCのSurfaceです。先月お話した宅外の現場に持ち出して利用しているものですが、在宅でも資料の閲覧とノートテイキング用にそのまま使っています。インターネットの接続は宅内に引き込んだ光回線ですが、デスクトップはONUから有線で直接接続し、ラップトップとSurfaceはWi-Fiで無線接続しています。

  

拙宅の場合は、昔からパソコンで趣味の音楽を鑑賞するためアクティブスピーカーやDAC付きヘッドフォンアンプを接続していました。またこの写真には写っていませんが、反対側にオーディオコンポがあります。そちらのアンプへもPCから別のDAC経由で接続しているため、サウンド出力の切り替えなどにSTREAM DECKというデバイスも利用しています(上記写真の左側でマイクとキーボードの間に置かれているボタンがたくさんついた小さい機器です)。このSTREAM DECKは、頻繁に使うアプリやファイルのショートカットを登録してランチャーとしても使える非常に便利なデバイスです。こうした一連の機器は通訳業務とは関係なく使っておりましたが、コロナ禍でのリモート通訳業務に際しとても役立ってくれています。通訳用に新たに購入したものは先述したウェブカメラとマイク2本だけです。

  

実際の在宅での通訳業務に沿ってもう少し詳しく説明したいと思います。リモート通訳で利用されるサービスにはZoom、Teams (Microsoft)、Webex (Cisco)、GoogleMeet、Chimeなどがあります。メインのデスクトップPCから指定のインターネットのリンクにアクセスします。逐次通訳の場合は外付けのスピーカーから音声を出力して聴き、マイクに向かって話します。左の2本のマイクのうち、手前の細いほうのマイク (FIFINE) がメインのデスクトップPCへの入力用です。奥の円筒形のマイク (M-Audio) は右側にあるサブデバイスのラップトップPCの外付けマイクです。逐次通訳の場合はメインのほうだけを使います。
音声の出力については、PCからDAC付きヘッドフォンアンプ(Audinst HUD MX-1)を介して外付けのスピーカーとヘッドフォン両方に接続しています(下の写真参照)。

このDACはスピーカーとヘッドフォンの出力をスイッチで切り替えることができるようになっています。同時通訳の際にはヘッドフォンからの出力音声を聴きながら通訳をするわけですが、交替や休憩の時間にはヘッドフォンを耳からはずし、出力をスピーカーに切り替えて会議の進行をモニターすることもできます。ボリュームの調整もこのヘッドフォンアンプの音量調整ダイヤルで行います(PC自体のボリュームとアクティブスピーカーのボリュームはそれぞれ最大にしてあります)。
注:冒頭の全体写真右側のスピーカーの横にも黒いDACが接続されていますが、これはさきほどお話した別のオーディオに接続されていて音楽を聴く時だけ出力をこちらに切り替えて使用しているものです。通訳業務では使っていません)

  

同時通訳の場合もデスクトップPCをメインにするところは同じですが、パートナーの通訳者さんとの連携や、通訳機能を搭載していないリモート会議ツールで日本語・英語のチャネルを分ける場合、リレー通訳の際、あるいはメインのセッションと別にブレイクアウトセッションでも通訳が必要なため別アカウントでリンクに参加する必要がある時など様々な状況でサブデバイスが必要になります。全体写真の右側のWindowsラップトップPCがサブデバイスです。マイクは外付けのもので左側にメイン用のマイクと並べて設置してあります。2本のマイクはそれぞれ手元でマイクのON・OFFが可能です。

マイクの前のSTREAM DECKにはリモート会議ツールのショートカットをボタンに登録しています。例えばZoomの通訳設定の場合は通訳言語を英語・日本語でその都度切り替える必要がありますが、通常はマウスでカーソルを動かし、言語選択してはクリックするという動作を連続しなければならず、切り替えが頻繁な時は結構大変です。Zoomには通訳言語切り替えのショートカットもありますので、これをSTREAM DECKのボタンに登録しておけばワンプッシュで楽に切り替えることができます。その他にもショートカットのあるものについては登録して利用しています。

  

以上が筆者宅の機器とその設定です。本連載のためにお話を伺った通訳者の皆さんも平均して2台(あるいは3台)のコンピューターデバイス(スマートフォンを含む)を状況に応じて使い分けているというところはほぼ共通しています。マイクとスピーカーは外付けよりもパソコン内蔵のものをそのまま利用している、あるいはマイク付きのインカムタイプのヘッドセットを使っているという方も多数いました。

  

その他にもいくつか参考になりそうなお話がありましたので最後にまとめておきます。
●オーディオミキサーを利用している方が複数いました。メイン・サブ両デバイスの音声をミキサーに入力して両方ともヘッドフォンなど一つの出力デバイスで聞けるようにするためです。それぞれの出力は個別に手元で制御できます。
●リモート会議サービスはコンピューターリソースの消費も大きいということで、ハイスペックなゲーミングPCを使っているという方も何人かいました。
●「在宅では絶対に仕事はしたくない」という方もいました。理由をお尋ねしてみますと、以前在宅通訳中に停電してひどい目に遭ったとのことでした。最近は一般家庭のブロードバンド環境も相当整備されているため通信回線が落ちたという話は一切ありませんでしたが、停電の事例は他にも耳にしました。対応策として、メインリンクの機器は充電池稼働のラップトップにしているとのことでした。
●機器についてではありませんが、ご自宅にペットがいるため、場合によっては近場のホテルでデイユースを利用しているという方もいました。

  

今月は以上です。
ではまた次回までご機嫌よう。

  

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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