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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 社内通訳 和田泰治

第14回(最終回)

通訳者とAIツール(前編)

 

皆さんこんにちは。
通訳者を目指している皆さん、通訳者としてデビューされたフレッシュな皆さんに通訳現場の情報のあれこれを取材してお届けしようという本企画も今回が最終回となりました。トリを飾るテーマは「AIツール」です。「自動翻訳や音声のテキスト起こしなど様々なAIツールが実用化されていますが、通訳者の皆さんは現場で何をどのように活用していらっしゃるのでしょうか?実際プロの通訳者の視点に立つとどの程度役に立つのでしょうか?」などこちらのテーマにも多くの関心が寄せられています。

 

ここ数年自動翻訳などのサービスの普及は目覚ましいものがあります。一昔前までは「機械翻訳は役に立たない」などという声も聞かれましたが、AIをベースとしたアルゴリズムの進化は著しく、通訳者が準備の過程で様々に利用できるようになってきています。また、ChatGPTは特定のテーマについてウェブ上の情報を収集、整理する際の手間と時間を大幅に削減してくれる頼もしいアシスタントですし、事前に音声ファイルだけが資料として送られてきた時には音声をテキストに書き起こしてくれるサービスやアプリも大変助かります。今回は、こうしたAIツール(本稿ではまとめてこのように呼ばせて頂きます)が実際にどの程度、どのように通訳者によって利用されているのかを探ってみました。
但し、これはあくまで筆者がお伺いできる範囲の限られた通訳者の皆さんにお聴きした内容をまとめたものですので、対象者数も統計的に有意なものではありません。あくまで定性的な考察としてお読み下さい。

 

現場の通訳者がよく利用しているAIツールには、以下のようなものが挙げられます。
●ChatGPT
●自動翻訳(DeepL/Google翻訳など)
●音声データのテキスト起こし(Otter/MS Wordのディクテーション機能など)

 

①ChatGPT

それでは先ずChatGPTから始めましょう。
最近ではブラウザや検索エンジンでAI機能が利用できるようになり、それだけでもかなり便利になりました。これまでは、Googleの検索エンジンに言葉を入力すると関連してウェブサイトが表示され、ひとつずつ順番にアクセスしてコンテンツを読み、関連性が高くなければ次へゆき、役に立ちそうなサイトなら熟読し、まだ十分でなければ同じ作業を繰り返すことが必要でした。サイトの表示順は場合によって広告性の高いものがリストの上位に表示されることもあり、意図するコンテンツにたどり着くまでに時間を要することもしばしばです。現在では、検索結果のトップにAIが要約をした概要を表示してくれますので、これを一読すればある程度のことは瞬時に把握できます。

 

また日英両言語の用語集を作成しようとすると、上記の手順を踏んでネットサーフィンを繰り返しながら用語を拾ってゆくことになります。日本語、英語両言語のサイトを閲覧しながら対訳と思われる単語を紙に書き取ったり、ExcelやWordに入力したり・・・・と、こちらも相当な体力が必要です。

 

ここでChatGPTを利用します。最近、筆者が実際に通訳したテーマである「量子コンピュータ」を例にとってみましょう。量子コンピュータ?量子理論?何だそれは、全く知識がない。どうしよう。取り敢えず重要な言葉だけでも整理してそこから深堀りして勉強しよう。ということで、ChatGPTに「量子コンピュータの和英用語集を作成して下さい」と入力してみます。瞬く間に表示されたものがこちらです。

 

●量子コンピュータに関連する和英の用語集を作成しました。基本的な概念から専門的な用語まで、重要なものをリストアップしています。

<量子コンピュータの和英用語集>

1. 量子コンピュータ
  Quantum Computer

2. 量子ビット(キュービット)
  Qubit (Quantum Bit)

3. 量子重ね合わせ
  Quantum Superposition

18. 量子アニーリング
  Quantum Annealing

38. ボソンとフェルミオン
  Boson and Fermion

39. 量子ヒューリスティック
  Quantum Heuristics

40. 量子テレポーテーション
  Quantum Teleportation

 

この用語リストから特定の言葉を選んでまたChatGPTに問いかければこれも瞬時に概要を返してくれます。例えば「量子アニーリングとは何ですか?」と入力すると・・・・

 

量子アニーリング(Quantum Annealing)とは、量子力学の性質を利用して複雑な最適化問題を効率的に解く手法です。通常のコンピュータが解きにくい「組合せ最適化問題」などに対して有効で、特にD-Wave社の量子アニーリングマシンが知られています。
・・・と前置きしたうえで、
1.量子アニーリングの概要
2.量子アニーリングの仕組み
3.従来のアニーリングとの違い
4.量子アニーリングの実用例と課題
の各項目について、キーワードも含めて読みやすい分量で構成された説明が出て来ます。
続く簡単な「まとめ」では、可能性と課題を示唆したうえで、「何か具体的な事例について知りたい場合や、他の量子計算技術との違いを知りたい場合は、気軽に質問してください!」と、フォローも忘れません。

 

今度は「量子アニーリングを英語で説明して下さい」と入力すると・・・・

“Sure! Here's an explanation of Quantum Annealing in English:"という応答に続いて、
1. What is Quantum Annealing
2. How Does Quantum Annealing Work?
3. Quantum vs. Classical Annealing
4. Applications and Challenges
5. Summary
・・・と、日本語と同じ構成の説明が英語で示されます。細部まで完全に対称なわけではありませんが、用語を日英両言語で参照できます。

 

これを繰り返して、例えば結果をOneNoteなどのアプリに整理してゆけば、ものの1時間くらいで相当に実用的で内容の濃い準備ができます。

 

最終回の前編は以上です。自動翻訳ツール以下の後編は来月掲載させて頂きます。

 

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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