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『読書三到~或る通訳者の本棚』 和田泰治

第3回

日経LissN 最新時事英語キーワード』(日経LissN編集部+デビッド・セイン 編著)
『世界の視点を読むニュース英語入門』(倉林秀雄 解説)ジャパンタイムズ出版

 

皆さんこんにちは。今回は所謂「時事英語」と称されている分野を学習するための書籍のご紹介。

 

「時事英語」や「時事用語」というのはよく耳にするカテゴリーではあるのだが、明確な定義は難しい。政治、経済、社会、科学、文化、スポーツは言うに及ばず世相的な話題や俗語、流行語まで含んだとらえどころのない語彙や表現の集合体である。基本的には「ニュース英語」が中心と考えてよい。決して「新語」ばかりというわけではなく、一般には認知が低くても言葉としては以前から存在しており、一部の関係者や専門家の間では普通に使われていた言葉が何らかのはずみでメディアでの露出が急増して一般的な言葉に転じたものなども多い。「103万円の壁」や「選択的夫婦別姓」など良い例である。英語の定訳がない言葉も多く、通訳者は常にアンテナを高く張り、最新の言葉、情報を学習し続ける必要がある。

そんな「時事英語」を習得するためには、毎日欠かさずメディアの報道に目を光らせ、通訳できない言葉や表現は必ず調べる習慣を身につけることが何よりだが、ある程度まとめて解説してくれる書籍は補完教材として貴重である。本稿では筆者が実際に読んで学習している書籍を2冊紹介したい。どちらも毎年新刊が発売されているので年に一回、前年の重要な言葉や出来事を振り返りつつ学ぶのに有益だ。

 

①『日経LissN 最新時事英語キーワード』(日系LissN編集部+デビット・セイン 編著)

『日経LissN 最新時事英語キーワード』は、日経グループが提供する英語ニュース配信サービス「LissN(リッスン)」のコンテンツをもとに、時事英語のキーワードを体系的に学べるよう構成された学習書である。収録されているキーワードは、経済、金融、環境、技術、国際関係など幅広い分野にわたり、いずれも実際の英語ニュースに頻出する重要語句が中心である。単語単体での意味だけでなく、例文を通して背景知識や文脈での使われ方も学習することができる。
各キーワードには、英文例とともに、日本語訳、簡潔な定義などが併記されている。また、掲載されている英語表現は実際に日経が報じたニュースの中で使用されたものである。
収録キーワードの多くは、ESG(環境・社会・ガバナンス)、サステナビリティ、スタートアップ、デジタルトランスフォーメーション(DX)、地政学的リスクなど、現代社会を象徴するトピックと密接に関連している。

 

②『世界の視点を読むニュース英語入門』(倉林秀男 解説)

『世界の視点を読むニュース英語』は、日本最古の英字新聞「The Japan Times」が長年にわたり蓄積してきた国際報道の知見を活かし、英語学習者が世界の動きを読み解くために企画・編集された実践的なニュース英語教材である。本書の最大の特徴は、単なる語学学習にとどまらず、「世界をどう見るか」「多様な視点をどう受け止めるか」といった国際的教養の涵養に重点を置いている点にある。選ばれた記事は、アメリカやヨーロッパ諸国のみならず、中東、アフリカ、アジアなど多様な地域にわたるものであり、読者は英語を通じて多文化的・多角的な世界観に触れることができる。
本書に掲載されている英文記事は、政治、経済、環境、人権、テクノロジーなどのテーマに即した内容が揃っている。各記事には語句の注釈や文法解説が付されており、英語の読解力を体系的に養う構成となっている。単語やフレーズの解説にとどまらず、その背景にある歴史的・社会的コンテキストを掘り下げる記述もあり、ニュース英語を「読み飛ばす」のではなく「読み解く」ための力を身につけるのに適している。

 

「時事英語」、「時事用語」は時々刻々世界中で生まれている。本稿を執筆中の間にもアメリカの、主に投資家筋の間で”TACO”という言葉が使われているとの報道がある。これは” Trump Always Chickens Out”(「トランプはいつも尻込みする」)の略で、強硬な関税策をぶち上げ市場を混乱させながら、その後ディールと称して方針撤回するパターンを指している。
常に世の中の最新のニュースやトレンドに触れ続けられることが時事英語を学ぶ醍醐味である。

   

参考文献:
日系LissN編集部、デビット・セイン[編著](2025*)『日経LissN 最新時事英語キーワード』InteLingo株式会社
*シリーズ初版2021年

倉林秀男[解説](2023, 2024)『世界の視点を読む ニュース英語入門』ジャパンタイムズ出版

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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