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和田泰治先生のコラム 『不肖な身ではございますが・・・・こんな私も通訳です!』 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。1983年に明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

第4回:ディベート修行 -その弐- ネイティブスピーカーのような音韻で話す!

まず、3月11日の東北地方太平洋沖地震におきまして、被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、犠牲になられた方々とご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。

それでは今回のコラムです。

ディベートはパブリックスピーチです。しかも厳密な制限時間があり、その中で最大限の情報量を的確に、わかりやすく聴き手に伝えなくてはなりません。そのためにはスピーチの構成やどのような言葉、フレーズで伝えるかがまずは最も大切ですが、同時にある程度のスピードとわかりやすい発音、アクセント、イントネーションが必要であるということに気がつきました。ディベートを始めた当初は、とにかく話さねばならない内容が多過ぎて、たった8分や4分ではとても収まり切らないのが頭痛の種でした。解決策の一つとして物理的に出来るだけ早口で話そうということになるのですが、いろいろ苦労しているうちに、早く、スムーズに話すためには発音やリズム、アクセントが重要だということを悟りました。

そのうち、スピーチの練習をしている時に、時々ほんの一瞬、驚くほどスムーズに素早く口が回る時があることに気がつきました。一体どうしてだろうと思っていたのですが、しばらく経ったある時、それが、子供の頃からレコード(CDじゃありません!)に合わせて口ずさんで意味もわからず覚えていた洋楽の歌詞の数々だということに思い至りました。

そこから思いついて、ネイティブスピーカーが歌ったり話したりしているのを聞きながらそっくりまねてみたらきっともっとうまく喋れるようになるのではないかと考えたわけですが、つまりこれはシャドーイングだったわけですね。もちろん当時はシャドーイングなんていうトレーニングがあるなどとは露知らず、独自に編み出した訓練法として始めました。

何と言っても30年も昔のことで、今のように衛星放送や二ヶ国語放送で簡単に外国のニュースやドキュメンタリーが原語で観られる時代ではありませんでしたので、一番苦労したのはシャドーイングする元になる素材作りです。当時英語学習者にとって唯一ポピュラーなネイティブ英語の素材は米軍放送のFEN (Far East Network)でした。現在はAFNと呼ばれている放送局です。「FEN英語学習法」のような本も数多く出版されていました。ただしこの放送局は週に一回くらいミステリー劇場みたいのをやっているだけであとはほとんどが音楽番組です。こちらとしてはディベートで英語を話すという目的がありますから、音楽番組のDJじゃなくてニュースのシャドーイングをしたいわけです。ということで、ものすごく苦労して、1時間毎に5分間だけ流れるニュースをそのつどカセットテープに録音して1時間とか2時間とかのテープを作って素材にしていました。ただこれには限界があります。出来るだけ新しい素材で勉強したいのに、そのたびに丸一日ラジカセに張り付いていなければならないわけで、とてもそんなことはできません。

そんなある日のこと、テレビ神奈川で毎日夜の10時(だったと思います)から30分英語ニュースというのをやっていることがわかりました。平日は毎日放送していましたので、これをテープに録音してシャドーイングをすることが出来るようになり、おかげで勉強量も一気に増えました。確かテリー・オサダさんという女性が出演していて、その人の英語がとても好きでした。神奈川は地域的にアメリカ人が多いのでああいう番組をやっていたのでしょうか。いずれにしてもよくあの当時にあのような番組を放送してくれていたものだと今でも本当に感謝しています。

それ以来、このトレーニングも、英会話の丸暗記と並んで現在に至るまで私の英語学習の基礎となっています。30年前と比べれば、現在では利用できる素材もCNNやBBC、ドキュメンタリー番組など豊富で隔世の感があります。卒業後10年以上経って通訳スクールに通学し始めてから、これが「シャドーイング」というトレーニングだということを初めて知りました。現在でも日課の一部として続けています。

シャドーイングはスピーキングのトレーニングとして、特に発音やリズム、アクセント、イントネーションなど英語特有の「音韻」を身につける、英語を話す筋肉を鍛える、という観点からは非常に有効なトレーニングだと思います。発話しながら同時に意味も細部まで集中して理解しようという意識を持てば、リスニングのトレーニングとしてもかなり有効だと思います。

ただし、シャドーイングは外国語のスピーキング力を身につけるには有効なトレーニングではあっても通訳のトレーニングではありませんので、通訳者としてこのシャドーイングに取り組むようになってからは特に注意している点があります。それは、常に「この英語を同時通訳する時にはどのような日本語で話すか」ということを明確に意識し、考えながらシャドーイングをするということです。

シャドーイングはあくまで英語で聞いた音をそのまま正確にコピーする作業ですので通訳の動作とは全く違います。私の考える通訳とは、スピーカーの話す言葉は単なるヒントに過ぎず、従って言葉自体からは極力意識を離し、意味、あるいはイメージとして抽象化させたものを自分自身の言葉で説明し直すというプロセスだと考えています。言い換えれば、スピーカーの言葉に引き摺られず、通訳者が独自に自分の言葉で話すということです。そのためには、いかにスピーカーの発する言葉自体から通訳者が自分の意識を引き離すことができるかが決定的に重要であると思っています。

一方シャドーイングの効用は、言葉そのものに意識を一体化させ、音韻をコピーすることによって得られるわけですから、言わば通訳とは相反する全く逆のアプローチだと考えています。この相反する二つを出来得る限り両立させるために、「音を正確にコピーしつつ、通訳を想定した時の日本語も常に考え続ける」というやり方を目指しているわけです。時間がある時には同じ素材を使って同時通訳の練習もすれば、さらにシャドーイングのマイナス面を補正することが可能だと思います。

ただし、これもすべて私が勝手に考えて実践していることですので、どこまで正しいのかどうか一切責任は持てません。悪しからず。

と、またまた無責任に終わったところで、次回は第五回「ディベート修行 -その参- 討論に必要な英語のボキャブラリーを習得する!」です。

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