Tips/コラム
USEFUL INFO
プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
石黒弓美子先生のコラム
会議通訳・NHK放送通訳者
USC(南カリフォルニア大学)米語音声学特別講座終了。UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)言語学科卒業。ISS同時通訳コース卒業。國學院大學修士号取得(宗教学)。NHK-Gmedia国際研修室講師・コーディネーター。東京外国語大学等で非常勤講師。発音矯正にも力を入れつつ通訳者の養成に携わる。共著:『放送通訳の世界』(アルク)、『改訂新版通訳教本 英語通訳への道』(大修館書店)、『英語リスニング・クリニック』『最強の英語リスニング・ドリル』『英語スピーキング・クリニック』(以上 研究社)など。
第7回:Quick Response Exerciseとlexical approachの勧め ~自動的で速やかな英語のアウトプットのために、単語ではなく句や文でアウトプット~
日本で日英通訳を目指す多くの人たちの最大の悩みは、英語運用能力の向上であると言っても過言ではないかもしれません。かなり、英語の聞取りと理解力が強化された後も、理解した日本語を速やかに英語に直せないという悩みです。読んだり聞いたりした英語は理解できて日本語に訳出することができるのですから、頭の中に英語が入っているはずなのですが、日英通訳をしようとすると、英語が出てこない、使えないという悩みです。
なぜそんな現象に悩まされるのでしょうか。こんなに何年も英語を勉強し、通訳の勉強もしているのに、そして英日通訳はかなり上達したのに、なぜ日英通訳になると、しばしば絶句してしまうのでしょうか。原因の一つは圧倒的なアウトプット/使用の機会不足です。日本語は、何十年も毎日、毎日、アウトプットを続けてきました。しかもすべての会話はそれぞれの文脈の中で構成されますから、どのような文脈でどのような日本語の単語が、どのような句や文として使われるかも無意識のうちに体得しています。つまり、日本語はただ知っている、聞いてわかるだけではなく、使う力、運用能力が構築されているのです。
それに比べると英語は、日常生活ではほとんど使わない人が大半でしょう。英語のニュースを聞いたり、映画を見たり、あるいは英字新聞を読んだりと、たぶん涙ぐましい努力をしてきたはずです。しかし、ほとんど口に出して使う機会がありません。インプットはあっても、アウトプットが圧倒的に少ないのです。この現象は、「読める漢字と書ける漢字の関係」とほぼ同じです。漢字が書けるようになるには、書かなければならないように、英語を使えるようになるには、使わなくてはならないのです。が、しかし、どこにそのチャンスがあるというのでしょうか。
そこで、生み出された英語運用能力強化法の一つがQuick Response Exerciseです。その考え方は、外国語教育の分野で提唱された「インプット仮設」と「アウトプット仮設」をベースにしています。「インプット仮設」とは、1980年代に外国語教育の分野でもてはやされたもので、S. Krashenという学者が打ち出しました。彼は「聞く」「読む」という形で十分なインプットがあれば、「話す」「書く」というアウトプット能力は自然に身につくと主張したのです。
確かに、生まれたばかりの赤ちゃんは、最初の1年か1年半は、ただただ母語の音声に触れるだけ、どっぷりとそれに浸かっているだけですが、その中でお母さんや周りの人が言うことが自然にわかるようになり、ある日突然「ママ」とか「ババ」とかと言い始めたかと思うと、怒涛のごとくおしゃべりをするようになるのを見ると、この仮設には信ぴょう性があります。皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。その頃から日本でも一時emersion (どっぷり英語に浸かる)という教育方法が実践されました。
しかし、その後、M. Swainという学者が、インプットだけでは運用能力は十分に育たない、アウトプットが不可欠だという「アウトプット仮設」を提唱しました。言語は使うことで初めて、インプットした言語の知識を自動的に使うことができるようになるのだという主張です。Swainは、この説をカナダのフランス語教育調査で裏付けました。
私たちが通訳訓練の場で提唱しているQuick Response Exerciseでは、英語のアウトプットを自らに強制します。やり方は簡単です。問題は、各自がそれをどこまで実践出来るかどうかです。ここでは二つの方法をご紹介しましょう。その第一は、目に飛び込んでくるもの、情景、状態等を速やかに英語で表現していくというエクササイズです。声に出して言うのが一番良いと思いますが、人前では、無言でsilent quick response exerciseを実施します。これなら、例えばラッシュ時の電車に揺られている時にも練習できます。いつでも、どこでも、できるだけ頭の中に入れてある英語の知識を使うのです。
二つ目の方法は、日本語と英語の表現リストをつくって利用する方法です。左右どちらかに英語、逆側に日本語表現をリストアップし、最初は英語を何回も読みあげます。次に日本語を読み上げて行きます。その後は、表現集を縦に二つ折りにして、上から順に日本語を読みながら、すぐ英語表現に直していきます。自動的といえるほど直ちに英語が出るようになるまで練習します。通訳の授業で使った英語の教材から、この表現はぜひ覚えておきたいというものをまず書き出し、それに日本語訳をつけると自分の表現集ができます。
この時大切なのは、単語だけでなく、句や文を、クイックレスポンスで速やかに口から出せるようにするということです。単語だけ覚えても使い方を覚えることができないのでは、使えるようにならないからなのです。これをlexical approach(定型表現アプローチ)といいます。今までの日本の英語教育は、文法と語彙、つまり「単語」を覚える教育が主でした。それでは覚えた単語も使えるようにはなりません。使い方を含めて覚えるのがコツです。それには、文脈と共に句や文でquick response練習を行うのが良いのです。
例えば、通訳現場で頻出する以下のようなリストを使って練習してみてください。
Ladies and gentlemen, I would like to thank you for taking time out of your busy day schedules to join us at this conference. | 皆さま、本日はお忙しいところ本会議にようこそお出で下さいました。 |
The conference rooms are strictly non-smoking. | 本会議場では禁煙をお願いしております。 |
The smoking area is located on the 3rd floor of this building. | 喫煙場所はこの建物の3階にございます。 |
The conference will start shortly. Thank you for your cooperation. | 間もなく開会いたしますので、もうしばらくお待ちください。 |
Ladies and gentlemen, thank you for your patience. | 皆さま、お待たせいたしました。 |
300,000や1,000,000など数字も練習しておきましょう。ほぼ自動的に直ちに口に出てくるようになるまで練習することが、英語運用能力向上のカギです。GOOD LUCK!!!
第18回:大切にしたいことばの力・言語コミュニケーション– Power of words
第16回:聞く人の身になって-「日本人はあらゆるものに神を見る」 We see gods in everything..... with a small letter “g” –
第15回:「読める漢字」 vs 「書ける漢字」 How many Kanji characters can you read? And how many can you write?
第14回:つきない勉強 The more you learn, the more you realized you have more to learn.
第13回:七転び八起き ~Difficult child 難しい子!? 多様性の一つ?~
第12回:「女性が輝く社会 A Society where women shine??」――課題は多いけれど
第11回:「どんなお気持ちでしたか?」 ~How did you feel? What did you think? しか出てこないもどかしさ。
第10回:もう一つの通訳 -本物の「包摂性」とは何か? How much do we really know about inclusiveness?
第8回:DLS Dynamic Listening and Speaking 日英通訳力強化のために
第7回:Quick Response Exerciseとlexical approachの勧め ~自動的で速やかな英語のアウトプットのために、単語ではなく句や文でアウトプット~
第5回:Listening comprehension 本当のところ、どこまで聞取れていますか
第3回:「I started to walk in electronics in 2006???」 母音再確認の勧め
仕事を探す
最新のお仕事情報