ホーム  >  Tips/コラム:プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム  >  相田倫千のプロの視点 第2回:2020年3月以降どう変わったのか?通訳業務

Tips/コラム

Tips/コラム

USEFUL INFO

プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千

第2回

2020年3月以降どう変わったのか?通訳業務

 

皆様こんにちは。
コラムを書いている今、毎日寒い日が続きますが、お元気でしょうか?
今年は元日から、能登半島の地震や羽田空港での飛行機事故と、年明け早々気持ちも胸も塞がるような天災と事故がありました。
犠牲になられた方には心からご冥福をお祈りいたします。
被災された方々には、皆で復興支援し日常生活が取り戻せますように、協力しましょう。

今回は、「2020年3月以降どう変わったのか?通訳業務」と題して書き進めたいと思います。
まずは今年、2024年から見ていきましょう。今の通訳者達の仕事のやり方、業務は以下のようになっており、主に三つの側面(テクニカル、技量、ロケーション)があります。

ではまずテクニカルな側面から見ていきましょう。
2020年コロナパンデミックの起こる前は、通訳者はみな9割が現場での案件対応をしていました。5人ほどの社内会議から、大規模な数百人単位のコンファレンスまでありました。通訳は、開催地へ行って、ブースに入って通訳をしました。小さな会議はブースはないものの、会議室で通訳機器を使ってやります。現場で使用する通訳機器などはすべて通訳エージェントから提供され、通訳は通信機器を持参しません。また機器の調整や操作など、すべてエージェントのエンジニアがやってくれます。音響処理、雑音なども、消すのは音響エンジニアの方でした(今もそうです)。音に関する責任はすべてエージェントが担っています。

コロナ以降は、企業がリモートワークにシフトしました。企業の中には一切出社は禁止、リモートのみというところもあり、通訳を介する会議もリモート会議に変更です。その移行つまり企業側のリモートワークへの準備に数か月かかりました。その間通訳の案件は激減、私は9割減でした。「あ~、もう私の通訳人生終わったのかな」と不安な2020年4月5月でした。
6月頃からZoomを使う会議の依頼が少しずつスタートし、7月ごろにはかなり増えました。

リモート通訳形態が始まると何が起こったか?というと、機器の不具合、アップデート、機器の調整、準備の責任が全部個人業主である通訳へとシフトしました。
リモート会議中の不具合は、その場でひとり「自己解決」をしなければなりません。案件会議のサイトに入れない、音声が出ないなど、今までエージェントが全部負ってくれていた部分を、通訳が仕事部屋で「一人で」解決対応しなくてはならなくなりました。
私は、苦手だった通信機器とネットワークを勉強しました。通信プロバイダも二社にしました。
仕事現場も自分の部屋なので改修して、スタジオのようにしました。
リモートワークは自宅、普段着でできるので楽ですが、自分で技術的なこともすべて本番環境でこなせる能力が必須なのです。それができなければ、リモート案件は依頼が来ないし受けることはできません。案件の条件に、機器の準備と扱えることが要件として挙がっているからです。
そこが苦手な場合、リモートワークにシフトしたことで、仕事をほとんどしなくなった方もいらっしゃいます。
今の通訳は、通信の技術と通訳術の両方が必須になりました。

そして2024年です。
コロナは第5類になり、渡航も解禁となりました。
では、通訳の業務はコロナ前に戻ったのでしょうか?
今はハイブリッドになりました。大きなコンファレンスも、スピーカーが全員来日して現場で行う場合もあれば、部分的にオンラインで参加する場合もあります。または、外国人の講演はバーチャルのままリモート参加して、日本人だけが現場でプレゼンすることもあります。
またこの新年の企業トップの挨拶も、オンラインでやることもありますし、予めビデオに録画しておいて、それを当日通訳が同時通訳することもあります。
どんな通訳形態でもできる臨機応変さと柔軟性が求められます。
基本は通訳の力量だと思いますが。

このように、ここ4年ですっかりと通訳形態が変化しました。
リモートワークに使うソリューションもTeams、zoom、Webex、などが主流で、すべての同時通訳機能を駆使して会議をこなさなければなりません。
そのために、私は常に2台のメインパソコンを使用しています。それとは別に通訳回線用のパソコンも横におきます。合計で3台のパソコンを使用しています。
通信状態が悪くて落ちてしまっても、通訳側の責任と取られがちです。通訳はよくも悪くも目立つのです。結局は「通訳がいなくなった」ということになってしまうので、身を守るためにバックアップ体制で臨んでいます。

二つ目、技量に関する側面です。
リモート通訳になってから、通訳者の名前が画面に表示されます。クライアント様も、どの通訳が訳しているのか名前でわかります。どの通訳が上手で、どの通訳がわかりにくいのか、はっきり名指しでわかるのです。
これはある意味怖いことです。平等にちゃんと評価される、これはいいことです。コロナ前、現場などのコンファレンス会場のブース通訳業務だと、一体誰が訳しているのかわかりません。またエージェント側も、コンファレンス現場だと、通訳機器の数も制限があり、有料なので、自分たちで通訳のパフォーマンスはチェックできません。
でもリモートだと、エージェントや主催者は無料でTeamsなどに参加して、チェックができます。
本当に正確に訳している通訳が評価されるのはいいことですが、通訳も常に勉強をし、アップグレードしなくてはならない厳しい時代になりました。

これからますます通訳としての真の実力、応用力、知識、その場やオーディエンスの空気を読みそれに合わせて訳す力が問われるでしょう。それができている通訳とできていない通訳の力量が露呈してしまう時代です。
またリモート通訳案件がこの先もかなりの割合で残ることを鑑みると、通信機器がなんでも扱える技術的な能力も必要です。ワンオペで機器を所有しメンテし、修理し、通信の問題があればその場で即解決し、会議通訳を続ける能力も必須です。
リモートで複数人数組んでやる会議の場合、パートナー達とのやり取りで臨機応変さが求められるので、その力量も必要です。パートナーが落ちてしまったら「私の担当じゃない」ではなく、資料を読んでいなくてもカバーできる実力も必要でしょう。実際私も、パートナーが30分機器の不具合で戻ってこれず、一人で延々とプレゼンを訳したこともあります。もちろん初見で。こういう時に、通訳学校での訓練が役に立ちました(笑)。

三つ目の変化がロケーションです。
コロナ前の現場が主流だったころは、都内の通訳者が有利でした。でもリモート通訳が主流になってからは、地理的な制約はありません。都内の現場に通勤できない距離に住んでいる通訳も制約なく案件を受けることができます、
私も時々関東圏の遠方、長野や新潟の通訳の方とリモート通訳で組みますが、優秀な方が多く、今まで埋もれていた人材だったのだと改めて思います。またアメリカ本土の通訳者やシンガポールからの参加者もいます。
反対に首都圏の通訳が関西圏や地方の案件を一手に引き受けているという現象も起こっています。
通訳の実力に応じて案件数があるという時代になってきたのです。
この先またパンデミックのようなことが起こるかもしれません。火山の噴火や気候変動の結果、行き来ができなくなり、全リモート通訳に切り替わるかもしれません。
そのための準備はしておくべきだと思います。どこに住んでいようと、です。

では、どうやってこの厳しい時代にずっと仕事をいただける通訳で居続けるのか?
これは次回の「スーパー勉強術」でお話したいと思います。

お読みいただいた方で、リモート通訳って大変だなと思われている方もいらっしゃるでしょう。
でも自宅でスウェットを着て、直前までゆっくりできて、温かい部屋でコーヒー好きなだけ飲みながら横にクッキーを置いて通訳して、そして終ればそのまま自宅から出て散歩して、次のリモート通訳に備える、なかなかいい生活です。

すべてを楽しいステップにする、これが私の人生観です。

それでは、この辺で失礼します。
また来月、お目にかかりましょう。

相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

Copyright(C) ISS, INC. All Rights Reserved.