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【NEW】『実務翻訳のあれこれ』第十九回:翻訳Hacks!〜初めて仕事で翻訳することになった人へ〜

前回は修羅場を晒したことで各方面からお気遣いのお言葉をたまわり、たいへん恐縮しております。
ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。
おかげさまですっかり元気になり、子と体力勝負の日々です。


さて今回は「翻訳Hacks!」と題し、翻訳の技術的なことを除くコツをまとめてお送りします。
初めて実務翻訳の現場に放り込まれた、20代後半のちょっと天狗な人を想定してみました。
このため若干Sっぽい感じになりましたが、なにとぞご容赦ください。



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(1)仕事で訳すとはどういうことか。
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  • 仕事で訳すとは、「商品として訳す」ということ。

  • お客様のために訳すこと。自分の満足のためではない。

  • 訳語、文体、納期など、お客様の要望に応えるのは当然のこと。

  • お客様の期待を(どこか1カ所でもいいので)上回るのがプロ。

  • 翻訳者が英語ができるのは当たり前。その技術を買ってくれるお客様にむしろ感謝すること。

  • 間違っても「私は英語が出来ますから」とすましていてはならない。

  • 訳文には極力、自分の個性を加えない。翻訳とは自己消去である。


  • 常に全力で訳すこと。ベテランも常に全力を出しているが、そう見えないだけ。




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(2)良い道具をそろえること。
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  • まずはとにかく良い辞書を。良い辞書を使うだけで訳質が上がる。

  • 具体的には本コラム第3回「辞書について」参照。

  • 最初の数年は初期投資の時期と割り切り、辞書代だけはケチらないこと。


  • その他の便利な道具

  • キッチンタイマー:
    カウントアップとカウントダウンの両方ができるもの。
    1時間あたりの訳出スピードを測るために使う。

    30cmの物差し:
    原文がハードコピー(=紙)の場合、今読んでいる場所から視線がさまよわないように使う。
    推敲時にも有効。



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(3)食べ物とパフォーマンスの関係。
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  • 翻訳は脳をものすごく使う作業。ブドウ糖の補給を上手に行うべし。

  • チョコレートand炭水化物、チョコレートand/orキャラメル、コーヒーand/orドーナツの組み合わせは最強(笑)。甘い炭水化物は脳にダイレクトに効きます。
    ただし一気に摂りすぎると集中力が切れたときの崩壊ぶりも激しいため、ペース配分が重要。

  • ランチは腹五分目に。お腹いっぱい食べると眠くなり、午後が使い物にならなくなる。


  • その分、夕食は体にいいものを食べましょう。




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(4)1周目の訳の作り方。
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  • 文章の全体構成を頭に入れた上で、訳しやすいところから訳す。必ずしも冒頭から訳す必要はない。

  • 特に、タイトルやサマリーは本文の後に作業したほうが、適切な訳ができる。

  • 同様に、文中、ある程度調べてもわからない箇所は、ハイライトをかけるなどして保留して先に進む。

  • 後の内容から、先の部分の意味が分かる場合も少なくない。

  • 一括変換機能をうまく活用して、同じ表現には同じ訳語をあてる。


  • 1周目の訳は、可能な限り文法的に正しい解釈に基づいて行う。ここで適当に訳していると、推敲が単なる改悪になってしまう。


  • 1周目の訳は、深く集中して、表面的な言葉の奥にある書き手の意図に寄り添うこと(抽象的ですが)。




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(5)推敲の仕方。
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  • 推敲は、1周目の訳とは一転して、読者の目線に立って行う。


  • 推敲は、可能な限りテーマを決めて行うとよい。

  • 例:「日本語の流れは自然か」「訳抜けはないか」
      推敲のテーマがぶれると、推敲が節穴状態になってしまう。

  • 推敲の段階で「日本語の流れ」に集中するには、1周目で「文法的に正しい解釈」に集中する必要がある。間違った解釈に基づいて日本語をいじり回し、単なる改悪にならないように。


  • 1周目の訳と推敲の間に、少しでも長く時間を置く。

  • できれば一晩、無理ならお昼休みや甘い物休憩などをはさむ。
    5分しか寝かせられない場合も、とにかく席を立って体を動かし、頭をリフレッシュするとよい。



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(6)いい訳語が浮かんでこないとき。
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  • 「英語がわからない人にこの内容を説明するには」と考え、パソコンの前で自問自答する。


  • それでもだめなら、席を立って体を動かす。

  • 別のことをしている時に、ぱっと訳語が思い浮かぶ時がある。

  • 水のある場所はマイナスイオンが出ているので、訳語がひらめきやすいらしい。

  • ただし、具体的な場所をここで挙げるのは控えます(笑)。



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(7)締切について。
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  • 何があっても締切は守ること。

  • 実務翻訳では、どんな名訳も締切に遅れたら意味なしと心得る。

  • 遅れそうなら、納品先に連絡する。

  • 翻訳はチームワーク。次の作業をするために自分の訳を待っている人がいることを忘れずに。

  • 日頃から自分の翻訳スピード(1時間に何語訳せるか)を把握しておき、ペース配分の参考にする。


  • 締切が厳しいことを、訳が荒れることの言い訳にしてはならない。納期と訳質を両立させるのがプロ。

  • 時間的に厳しいなら、最初に伝えて交渉する(そのためにも自分の翻訳スピードを把握していなければならない)。

  • 逆に、締切がないときは、自分なりの目標を設定するとよい。

  • 「とことん調べる」「訳で冒険する」など。

  • 締切を無事に越えたら、訳を復習する。

  • 調べた単語の整理、フィードバックがあればその確認など。



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(8)フィードバックについて。
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  • フィードバックは、たとえクレームに近いものでも、まずお礼(とお詫び)を伝えること。

  • 言い訳したり怒ったりしない。

  • 相手は、もし二度と頼みたくないほど怒っていたら「フィードバックを与える時間と労力すらもったいない」と思うはず。

  • 「フィードバックをもらえたということは、次回の訳に期待していることなんだ」と考えて、心からありがたく復習する。



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(9)最後に、心構え的なこと。
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  • 良い訳をするには、精神的安定が非常に大切。

  • 公私に不満を抱えていると訳に出て、クレームにつながりやすい。

  • 翻訳者として進歩したいなら、給料の3倍の価値を提供するつもりで。

  • または、相手がいくら払っているのか常に意識し、価格以上の価値をもたらすように努める。

  • 訳だけでは給料の3倍の価値を生み出せないと思うなら、せめて仕事を頼みやすい雰囲気を心がける。

  • 若い人はひたむきに。若くないなら、相手を人として気遣う心を。

  • いつも誠実に。

  • 相手によって態度を変える人、ものを頼みにくい人、相手に気を遣わせる人、仕事をもらってイヤそうな顔をする人、必要な助けを素直に求めない人は、次につながらない。

  • 日々勉強。

  • よりよい翻訳をするための自己投資を惜しまないこと。
    これには書籍代はもちろん、人と会ったりおいしいものを食べたりして、心豊かに過ごすためのお金も含まれます。

  • 人とのつながりは最大の財産。

  • いい縁は「わらしべ長者」のように次のステップを運んでくる。人の縁をくれぐれも大切に。

  • 修羅場は成長のチャンス。

  • 特に若いうちは、背伸びが必要な仕事も尻込みしないで引き受ける。

  • 人間が訳す以上、どうしても誤訳などのミスはつきもの。

  • 完璧な訳は存在しないが、完璧な訳を目指す姿勢が大切。
    翻訳の道は奥が深いです。お互いがんばりましょう!!






成田 あゆみ
1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。
5〜9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。
英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。





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