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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム
通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千
第3回
通訳者のスーパー英語勉強術
皆様こんにちは。先日は都内に雪が積もりました。とても寒いですね。でも春まであと少しです。
さて今月のテーマは、「スーパー勉強術」です。
コラムの内容自体は通訳希望者に照準を当てていますが、今後の世の中はますます英語の能力が必要になります。通訳希望者でなくとも、世界の流れに沿って快適に過ごし、雇用の安定をはかるためには、英語は必須であると思います。
今の日本人のパスポート保有率はどのくらいだと思いますか?
2023年末時点で、18%です。意外に低いと思いませんか?
これを見てもわかるように、ほとんどの日本人は海外に仕事で行くこと、ましてや移民することなどほとんどないように感じます。
でも、貴方がこれからも仕事をする人であれば、英語はマスターした方が、雇用の機会がぐっと上がり経験の範囲も拡がるでしょう。
そして日本も格差ができてきていると言われていますが、パスポート保有率でもわかるように、海外へ気軽に出る人と出ない人(出られない人)とに別れてきているように感じます。いつでも自由にどちらでも行けるようでいたいものです。
私は、愚息たちが欧米に住んでいるので、一年に何度か欧米、主にアメリカに行きます。昔と違いまたコロナ後は特に、ホテル予約から飛行機予約まですべてがデジタル化されており、旅行の手続きも英語を読んで自分ですることがデフォルトになっています。
国際線は旅行代理店に手配を依頼しますが、アメリカ国内線は、基本的には自分で予約するようになっています。フライトの様々な条件を確認し、座席も自分でアプリ内で選び、チェックインもアプリで行います。
また米国内線は、空港でのカウンターを撤廃する傾向にあり、チケットの予約から荷物を預ける、予約した席に辿り着くまでの一連を、とても分かりにくい英語を読みながらアプリで自分で行わないと飛行機も乗れません。これがグローバル化された今の現実です。日本語というオプションはありません。
ユナイテッド航空やアラスカ航空でLAからNYに行くとき、私も予約した席に座るまでドキドキでした。
英語が、他国の人と同じまたは普通程度にできないと、旅行も難しくなっていく時代です。
ではその英語の勉強術の話題に入りましょう。
勉強もこの時代、やはりアプリやデジタルを利用しましょう。
私はYouTube、ポッドキャストを利用して勉強しています。
自分の分野に関するものや個人的に興味のあるチャンネルを登録して、継続的に視聴しています。視聴の仕方は、3パターン作っています。
1つ目は、真剣勉強モード視聴です。一日の中で空いた時間をまずこの真剣勉強に充てます。大きな画面のiPadを使い、ノートを横に置いて、言葉を拾いながら視聴します。例えばサイバーセキュリティに関するチャンネルですとSANSがありますのでチャンネル登録しています。新しい動画がアップされたら通知が来るので、必ず視聴します。ここで「聴く」ではなく「視聴」と言っているのは、YouTubeの画面に出るプレゼン資料もちゃんと見て、そのスライドの中の用語も拾って用語として集めるからです。聞き取れないときは、何度も何度も聞き取れるまで戻して聴きます。尺はだいたい60分です。それが完璧に理解できると、このモードは終わります。
2つ目は、少し緩い真剣モードです。これは時間がある時のみやります。何かというと、次の分野を見据えた勉強です。しばらく前までは、生成AIに取り組んでいました。その前は機械学習など一連のAIの学習方法についてでした。今興味のある分野は、量子コンピュータです。YouTubeやポッドキャストで検索して、チャンネル登録をして、30分ほど視聴します。
そして時間が許せば、3つ目に入ります。
これは、経済ニュースやエネルギー関係や自動運転やといった内容のものをその日の気分で真剣に視聴します。または、軽く同時通訳しながら聴きます。自由勉強でしょうか。
これが一連のヒアリングの勉強です。
かつては英字新聞も読んでいましたし、Foreign Affairsという雑誌もサブスクリプションで購読していました。コロナが襲った時に、通訳の仕事が9割なくなり、その時に経費の棚卸をしました。一切の「あったらいいな」経費をなくしました。あまり読んでいなかった新聞や雑誌は解約しました。最初は不安でしたが、やってみてわかったことがあります。
英語は、読むよりも聴く方が、効率が良いということです。通訳の仕事はヒアリングです。それを考えると当然の勉強法かもしれませんが、目から入る英語の定着率を耳から入る英語の定着率と比べると、耳からの英語の方が定着することがわかりました。
その上私はプロの通訳です。ですから、ヒアリング一択にする方が理にかなっているのです。翻訳家は、正式な英文を読んできちっとした文章を見て定着させる方がいいと思います。主たる業務が何かという用途の問題なのです。
通訳をしている私は、徹底して、聴く聴く聴く、これだとわかりました。
私の生活は、基本的には耳で入れる情報は英語、目で入れる情報は日本語としています。日本語は、漢字がありビジュアルに訴えます。そして日本語は文章にした方が美しいと私は感じます。英語から日本語へ訳すとき、同じ文脈の内容を伝えようとすると、日本語は英語の時間尺と比べると1.5倍から2倍の時間がかかります。ですから、英語→日本語はある程度要約をして、聴きやすい言葉にする必要があります。これは日本語の文章を読む方が訓練になります。主語のはっきりしない口語の日本語をいくら聞いても通訳としての日本語は洗練されないと思うのです。わかりやすい日本語を習得するには、小説や解説書を読むことで、私は勉強してきました。ある通訳者は、落語を聞いていると言っていました。それもよいと思います。落語も小説も余白のところがあり、想像して見当をつける能力が身に付きます。これもとても大切な通訳のスキルなのです。初対面の話者が何を言わんとしているか見当をつける想像力も大切なのです。
そして夜寝るときは、「Get Sleepy」というチャンネルで、朗読されるストーリーを聴きながら寝ます。え~まだ聴くの?とウンザリされている方、いらっしゃるでしょうね(笑)これ、本当に眠くなる語り方で、効果があります。昔、英語の睡眠学習って流行りましたね?うとうとしながら英語を聴くと潜在意識が英語になるとか???という話でした。それはどうなのかはわかりませんが、眠気が襲うこと間違いなし。何度も聴いている宇宙の成り立ち(タイトルはThe Sleepy History of the Universe)は、出だしのビッグバンから始まって、宇宙が膨張し数十億のマターとアンチマターが発生し、余剰のマターが物質になり、水素ができて・・・・というところでいつも寝てしまうので、それ以降どうやって私たちが存在するようになったのか未だに聴けていません。英語はとても良い睡眠薬です。
きっかけは、夜11時にリモート通訳を終え寝ようとしても頭が冴えて寝られない日が続いたので、Get Sleepyを聴いてみたのです。いろいろな物語を聴くうちに、欧米文化の日常用語やお祭りや動物の名前を覚えました。これも通訳の仕事に役立つと思います。
まとめますと、スーパー勉強法とは、日常に英語、日本語の習得を取り入れることです。英語は化学や医学と違い、実験室も不要だし、場所も取りません。実はとても勉強しやすいのです。電車の中でもイヤホンがあればいつでもヒアリングの勉強はできます。
私が通訳学校に通っていた30年前とはくらべものにならない程、今は教材が無料で手に入ります。そしてどこでも24時間使えます。
わざわざスーパー勉強法と言わなくても、楽しんで日常でできる勉強なのです。
いかがでしょうか?
日本語脳は日本人や母国語が日本語の人はもうできているのですから、そのペアの英語脳も作ることを楽しんでください。
通訳とは、日本語と英語が同等に頭にあり、そしてそれを通貫させて使うことなのですから。脳の神経系、英語のシナプスを作りましょう。
それでは皆様、お休みなさい。今日はGet SleepyのEternal Friendshipを聴きながら寝ます。
次回は「AIとChatGPTで通訳は不要になる?」と題してお送りします。
相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。
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