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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム
通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千
第1回
通訳という仕事とパンデミックによるステージの変化
皆様初めまして、通訳翻訳者・相田倫千と申します。
今回のコラムは2回目の連載となります。
前回のコラム 「英語をキャリアとして一生続けていく」の連載からは10年以上が経ちました。そこで今回は、前のコラムから進化(?)、変化したことを書いてみたいと思います。
この間、仕事の内容や業務のモード、そして人生ステージがかなり変わりました。変わっていないのは、前のコラムでも書きました「自己紹介」の部分と、成育歴(出身地など)です。キャリアの部分では追加があり、今はITのサイバーセキュリティ、人工知能、自動運転技術、映画撮影、集団訴訟通訳などが増えました。これは時代の流れでもあります。
仕事のモードは、皆さんご想像ですぐにわかると思いますが、コロナ以降、通訳の依頼も通訳が自宅で自分の機器を使い、通訳サービスを提供する「リモート案件」がとても増えています。私の場合、自宅で同時通訳を配信する「リモート通訳」がスケジュールの8割から9割を占めています。
それにより2020年夏以降は、一日のスケジュールつまりは生活パターンも激変しました。朝は6時台から夜は23時台までお仕事をする日が増えました。これは欧米の時間帯に合わせて会議が設定されるからです。この時間帯、切れ間なくずっと通訳をしているわけではありません。細切れに、例えば朝1時間から2時間の長さの案件を2件、午後2件そして夕方から夜にかけて1件というパターンです。繁忙期は、最高1日6件をこなした日もありました。指名案件や、ずっとやっているなどで、お断りできない案件がある場合はそうなります。また企業の方も、今までは毎週してなかった会議も、コロナの期間中、リモートでできると分かった結果、毎週同じ時間帯に定期会議を設定するようになりました。こういった定期会議がまずあって、空いたところにその時点で依頼のある案件を(時間が合えば)入れることとなります。だからとても忙しいです。
また自宅リモート通訳と現場通訳とのハイブリッドという一日もあります。朝7時から9時頃まで自宅リモート案件をしたのち、10時頃現場到着、そこから17時まで通訳をして、ダッシュで帰宅し、夕食もそこそこに19時45分から仕事という日も出てきます。
コロナ以降、実感として仕事の数は3割から5割増えたと感じます。これは、コロナ前は来日して行っていた会議やコンファレンスやセミナーが、パンデミックの時に渡航できなくなり、リモートでやってみた。なんら支障がなかったので、そのままやり続ける企業が多いことが一つです。そして来日しない=旅費や経費がかからないので、かつては通訳料金がかかるからと控えていたような会議も、リモート案件なら経費は「通訳料金のみ」なので通訳を今まで以上に頻繁に使うようになったことも理由です。来日される方の経費と飛行機代、ホテル代を考えたらわかると思います。
通訳業界全体としては、パンデミック以降、リモート案件時代になってから、現場通訳でないからと引退した通訳者もいるし、パンデミックで仕事が激減したときにやめてしまった通訳者もいます。あと半年か1年がんばっていれば何とかなったのに、惜しいなぁと思うこともあります。
さて、私のほかの面ではどうでしょうか?高校生だった息子二人は、それぞれ海外に住んで博士として研究をしており、家をとうに出ています。今は夫と二人で住んでいます。
これを書いている今はクリスマス前なので、来週から長男が帰国し、続いて長男の婚約者がアメリカから来日、準備に忙しい毎日です。カリフォルニアに住む次男には女の子が産まれ、帰国をしており、私はおばあちゃんになりました、正式に!このような家族が帰国する時期以外、家事はほとんどやることもなく、気楽に仕事中心の生活をしています。クリスマス前から年末年始だけが、劇的に忙しく、我が家の人口密度が3倍に高くなる生活をしています。
この次世代の子供や孫に思うことは、「一生通じてなんとか食べていけるような技術や技能を身に着けてほしい」ということです。これが親の本音でしょう。
このコラムは、若い世代やこれからの人たちに対して、これからは英語の世界やひいては通訳、翻訳、そして仕事はどうなっていくのか?をテーマにしていこうと考えています。
人工知能の進化やソフトウエアそして技術の進化は、私たちの仕事を時には脅かします。通訳の世界もそうです。ChatGPTが突如世の中に出てきたときには、「通訳の仕事は絶対なくなる、今のうちに何か手を打たないと」と思った人もいるかもしれません。
では私たちはこのような激動の時代にどう生きていくのか?どうすればよいのか?ただ恐れるだけでは何の意味もありません。正しく知って正しく恐れることが大事なのです。恐れる前に、まずは敵を知る、つまり人工知能のことをリサーチして勉強する。そうすると怖くなくなります。人工知能は知能ではなく「演算の高速化」だということがわかります。
そして人工知能や機械翻訳の時代は、語学という職種に直接の打撃を与えます。これは確かです。
でも、考えてください。
貴方が音楽を聴いてとても感動しました。涙も出ました。でも、その音楽が実はChatGPTが作曲したものだと知ったらどうでしょう?
ある小説を読んで、自分のことや人生も重ね合わせてじ~んと感動したけど、実は作者はBotでした。どう感じますか?
私はバレエが大好きです。クラシックバレエにはポーズの定型があり、それを再現し芸術的な解釈が求められます。でもポーズだけなら、CGで作ったくるみ割り人形の方が正確で美しいはずです。でも何の感動もありませんし、見ても面白くありません。人間のバレリーナが人生を犠牲にして、鍛錬し、あの技をやってのける、そのダンサーたちのオーラとその人間性に感動するのです。完璧な振りつけ、そして見たところすっかり人間のロボットがやっている「キャッツ」を観劇しても、誰も感動しないでしょう。
通訳も同じなのです。その人工知能の先を行ける通訳は需要が減ることはありません。他の仕事もそうです。人間にしかできないことがあるのです。人間にしかできない通訳は、その裏打ちに、抜群の語学力(日英両方とも)、人生経験、専門知識、周りの雰囲気を読み適切な訳ができる力が必要なのはもちろんのことです。
このコラムは、通訳技術のみならず、これからの世界、生き方、人生百年をどう生きるか?など広い範囲で話題を取り扱っていきたいと思います。もちろん、皆さんからのリクエストで、「こんなことも書いてほしい」ということがあれば、可能であれば取り上げたいと思います。
還暦になった私の、将来の目標が何か、わかりますか?
それは、老人ホームに入って、格好よく英語で映画を観て、お茶飲んで、ボランティアで英会話を教えつつ、ホームからYouTubeで100歳の英会話チャンネル「今日も生きてる英会話」を配信するおばあちゃんになることです。
その時は皆さん、チャンネル登録して、いいね!してくださいね。
相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。
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