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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

辻 直美先生のコラム 『通訳サバイバル日記』 ロータリー財団奨学生として、ペンシルバニア州立大学大学院にてスピーチコミュニケーションの修士号取得。帰国後、外資系金融機関等の社内通訳を務めながら、アイ・エス・エス・インスティテュート東京校に学び、フリーの通訳に。通訳実績は多岐にわたり、経済、金融、不動産、航空、特許分野以外にも内閣官房長官プレスコンファレンス等を担当。2006年よりアイ・エス・エス・インスティテュート東京校、横浜校にて基礎科のクラスを数年間担当し、現在は東京校にてプロ通訳養成科3と同時通訳科の特別授業を担当。

第3回:リオデジャネイロの熱い夏

南米初のリオデジャネイロ・オリンピックがあっという間に幕を閉じ、日本は過去最高のメダル獲得数や様々な新記録を打ち立て、熱気冷めやらぬ暑い夏が終わろうとしています。地球の裏側の熱戦を見逃すまいと寝不足の毎日が続いた皆さんも多いのでは?私も体操、テニス、卓球などの競技では夜中までTVにくぎ付けになった一人です。

実は、常々感じていた事ではありますが、オリンピックを振り返ってあらためて通訳という仕事にはスポーツ的要素があるのではないかと思います。同時通訳では特に瞬時に判断する瞬発力が問われますし、集中力や体力も相当要求されます。これらの能力は人間誰しも年齢とともに衰えてきますので、そこを長年の経験やトレーニングで補う技術も必要になってきます。ルクセンブルク代表の50代の卓球選手の様子を「省エネ卓球」と呼んでいたのには思わず苦笑してしまいました。つまり最小限の動きで、最大限のパフォーマンスを出そうという戦術を意味するそうですが、経験則から相手の動きを読み、無駄なエネルギーは使わないという姿勢には大いに学ぶべき点があると感じました。

シンクロナイズドスイミングのコーチは、選手を極限まで追い込んだ厳しい練習で有名ですが、事前準備でできる事は全てやりきったという自信が本番での強さにつながる、またその努力が身体にしみこむほど練習を積むことによって、ここ一番という時に自然と最高のパフォーマンスにつながるという点でもやはり共通点があるように思います。特に新しい分野の仕事を引き受ける時、難易度の高い会議に臨む時には、最後はどれだけ自分が準備を積み重ねてきたのかという事以外に自分を助けてくれるものはないからです。

ある大先輩の通訳者の方が、通訳という仕事を“格闘技”と表現されていましたが、まさに取っ組み合いの戦いを終えてへたり込みそうになる仕事も少なくありません。やや大袈裟かもしれませんが、少なからずアスリートのメンタリティーが必要なのでしょう。もちろん通訳を長く続けていく上では、格闘技のような短期決戦の緊張感が毎日続くと、体調を崩したり、バーンアウトしてしまう場合もありますので、自分の仕事のペースがつかめるまでの間はバランスを崩さないようにある程度注意する事も大切です。

次に、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックと通訳市場への影響についても少し触れていきたいと思います。昨年あたりから徐々にエージェントからのオリンピック業務に関するお問い合わせも増えてきて、今後は益々加速する事が見込まれます。オリンピックに先立ち2019年にはラグビーワールドカップも開催されますので、各組織委員会等での準備会議はここ数年すでに増え続けていますし、今後はスポーツ関連の主催者側からのご依頼も右肩上がりとなるはずです。

スポーツ分野の通訳は、ある種特殊な分野でもあり、他での汎用性はあまりないのですが、その分特化した専門分野として重宝されるでしょう。特にオリンピックに関心が高く、スポーツに熱くなれる人であれば、仕事とエキサイティングな経験も同時にでき、まさに一石二鳥。特に、これからフリーランスを目指す通訳者にとっては、願ってもないボリュームゾーンになると思います。例えば、自分が学生時代に経験したスポーツや、よく観戦していてルールも把握しているスポーツなどをきっかけにエージェントにアピールするのも一つのアプローチです。オリンピックスタジアムや諸設備の建設・運営工程における建築家やデザイナーとの会議では、他のプロジェクトでも応用できる用語が出てくることが想定されますし、組織委員会やIOC関係者の記者会見ではメディア対応の経験を積むことができます。その他にも競技会場視察や様々な分科会・ワークショップも開催される事になりますので、通訳ののべ動員数はかつてないレベルに達するのではないかと期待されています。

かなり昔の話になってしまいましたが、六本木のミッドタウン・プロジェクトの立ち上げ当初から数年間関わった経験があります。何もないところから壮大なプロジェクトが仕上がるまでの間、通訳として裏方の地道な作業の連続ではありましたが、今でも現地を通る度に、当時を思い出して感慨深いものがあります。ましてやオリンピック・パラリンピックともなれば、東京都や国家を挙げての一大プロジェクト。一生の思い出として残る事は間違いないでしょう。この一大事業に微力ながら何らかの形で一通訳者として貢献できればと願っています。

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