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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

相田倫千先生のコラム 『英語をキャリアとして一生続けていく』 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学でジャーナリズムを学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として、主に半導体、産業分野のエキスパートとして活躍中。

第2回:私の勉強法その1:通訳学校に入学する前

このコラムは、何度かに分けてお話する「勉強法」についての第一弾です。

勉強法については、通訳学校でのレベル、通訳になりたての頃の勉強法、そして最後は、プロとしての勉強法(つまりメンテ法)と3回に分けてお話しします。まず第一弾です。

前月のコラムでも書いたイランでの通訳案件をこなした後、秋クラスの後半から同時通訳クラスの一つ下のクラスに途中入学し、数ヵ月後のテストに合格し、進級することができて、同時通訳クラスへすんなりと入れました。ここだけを読むと、「素晴らしい!!どうしてそんなことが可能だったの(ですか)?」と、通訳学校の生徒さんやまわりの人に聞かれます。確かに素晴らしい!もしそれが本当ならば・・・
でも私以外の優秀な方は、もしかしたら本当にホップステップジャンプで進級し、同時通訳者としてご活躍の方がいらっしゃるかもしれません。
私の場合はこうでした。お読みください。

これには色々と裏話があるのです。
アメリカから帰国してすぐに通訳の仕事に就き、通訳訓練学校のクラスは同時通訳科‐ここだけ読んで履歴を見ると立派ですが、私はその前にアメリカの大学で長い間「通訳訓練」をしてきたのです。モントレー大学などの通訳専門大学へ留学したのではありません。普通の州立大学の正規学生として勉強をしてきた結果、通訳能力が身に付いて帰って来たというわけです。

では、何をやっていたかというと、ひたすら「ヒアリング、訳出、まとめて記事を書く、感想を書く」という作業です。私の大学での専攻はマスコミ、大学院はジャーナリズムでした。いわばアメリカ人の中でも言葉に長けた人たちが集まる学部へ丸腰で行ったわけなのです。大学院の授業内容はプロのジャーナリスト養成を目的とした厳しいものでした。コースは、テレビジャーナリスト、新聞記者、雑誌記者と分かれていました。私はテレビジャーナリストのコースに入っていました。

その中では、例えば州議会議員にインタビューをして、その内容をまとめそれを記事にする。当時はCDもDVもなかったので、カセットテープで録音をさせてもらって、それを何度も聴いて理解し、記事を起こす作業を延々と続けていました。私にとってヒアリング力がないということは、卒業するに足る成績がとれない、イコール放校処分→帰国となるので、死活問題でした。ましてや政治家の中には、自分の発言は議会の外では絶対に録音させないという方針の方が多く、その場で聴いて理解する必要があったのです。外国人である私にとって、正直本当に大変でした。

そこでヒアリング力を上げるためにやったことは、留学生にとってはぜいたく品であったテレビを買ってきて寮の部屋に持ち込み、授業に行く前や暇なときは、ひたすら昼メロ(?)やクイズ番組をみて聞き取り理解し、ストーリーを追うこと、そしてニュースなら完璧に理解することでした。ジャーナリストになるのに、ニュースが理解できないなんてことはあり得ないからです。そして、聴き取れなかった言葉は、カタカナでスペルを想像してノートに書き出し、辞書で調べます。でもスペルを推測して辞書を見ても、見つからない単語がたくさんありました。その場合は、アメリカ人の友達にそれらしい発音でその言葉を言ってみて、スペルを考えてもらいました。本当に必死でした。中でも「召喚する」「subpoena」はスピーナーと発音するのですが、辿りつくまでに数週間かかりました。それを1年も続けると、ヒアリング力は自然に上がります。

また聴いた内容をまとめることも、通訳技術、特に同時通訳技術には役に立っています。聴いてすぐに内容を理解し要約する。こういった作業を1年近く続けました。

要するに、皆さんが通訳学校でする勉強を、アメリカで知らず知らずのうちに4年もやっていたということです。

もちろん言葉を扱う学部だったので、他の人よりは冠詞や前置詞、文章の内容については正確に読み取りたいというこだわりはあったと思います。教授は厳しかったので、外国人といえども容赦しませんでした。アメリカの慣用句が理解できていないという理由で、及第点をくれない場合もありました。

また、内容の理解については、完璧を求めていました。ヒアリングの練習だけで得る英語力は、ともすればスペルがあやしくなったり、文章としての完成度が低かったりするものです。それを埋めるためには、新聞、雑誌、政治的な雑誌、ゴシップ誌とあらゆるものを読みました。そして自分では絶対思い浮かばないような英語の文章については、ノートに書き写し自分のものとしました。これは今も続けています。必ずtheやaなどの冠詞もきちっと書きます。その上、前置詞もどうしてそれが使われているか分析します。それで完成としています。

今考えると、これらの「はっとした英文集」が通訳としての今の私の財産になっています。これら蓄積した英文が、通訳のときに口をついて出てきます。私たちはネイティブではないので、英文に関してはやはり「真似」なのです。どれだけ沢山の英文を知っているか、その中から今スピーカーが話している言葉にはどれが一番適切かということを判断し、それを訳すのです。しかも瞬時で。

今私はアイ・エス・エス・インスティテュートで通訳科の講師をしていますが、生徒さんは皆、「先生はどうしてそんなにたくさんのナチュラルな英語が口をついて出るのですか?」と質問します。それは生徒さん達よりも長い年月、たくさんの英語に触れてきたから、そしてただ触れただけではなく、必ず収穫をしてきたからです。ただじゃ終わりません。必ず素晴らしい言葉(英日かかわらず)を盗みながら来たからです。

ですから皆さん、通訳の勉強をしているのでしたら、ぼ~っと英文を眺めていてはいけません。訳せるだけでもいけません。その英文、あなたは自然に作れますか?作れないんだったらノートに書き写して覚えてください。それが貴方の血となり肉となり財産となるのですよ。

足掛け20年のプロ会議通訳でも、裏ではそうやって来たのです。特別に出来たからではないのですよ。そう見えるだけです。

さぁて、この辺でコラムを終えて自分の勉強をしましょう。
今日はどんな素晴らしい英文に巡り合えるでしょう。
わくわくします。

勉強編第二弾は、「通訳になりたての頃の勉強法」をお話します。なりたての頃は、どんな分野の仕事が来るかわかりません。そのときどうするか?を私の経験を織り交ぜてお話しいたします。

次回のコラムは、勉強法を離れて通訳として必要な「通訳のエッセンス」をお話しいたしますね。通訳に必要な「3C」です。
お楽しみに!

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