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プロ通訳者・翻訳者コラム

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相田倫千先生のコラム 『英語をキャリアとして一生続けていく』 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学でジャーナリズムを学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として、主に半導体、産業分野のエキスパートとして活躍中。

第4回:通訳はミタ

皆さま、まだまだ肌寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?
お天気が良いなと思うと花粉が飛び散っていて、なかなか体調管理が難しい時期ですね。今年の飛散量は例年より少ないとは言われていますが・・・

今回は、人気ドラマのタイトルを拝借して「通訳はミタ」と名付けてみました。旬のネーミングを旬のうちにお届けしようと思いましたので・・・

通訳は、最先端技術会議や企業間の会議の依頼を受けることも多々あります。そういった場合、予期せずに世の中に出る前の技術の情報を訳したり、企業買収の話しを通訳することもあるのです。もちろんいつも守秘義務が伴う職業ですので、内容についてはけっして他人に話すことは許されませんが。こういった会議に出席していた参加者についての情報もご法度です。

ある日英合弁企業の通訳を担当したときの話です。この企業の親会社の組織の存続について話をする会議を通訳しました。この会議は、部長レベルにも極秘で行われました。要するにトップシークレットです。この会議について、関係者でもあるとある部署のヘッドから「記録をとるために、あの会議にはだれが参加していたのかを知りたい。教えてくれませんか?」と言われたのです。いったん仕事が終わった外では、通訳はけっして話した内容を言ってはなりません。では参加者についてはどうでしょう?やはりご法度です。参加者がわかると会議の内容や会社の方針がわかってしまう場合があるからです。

そのときは、生来の性格が幸いして?か、本当に誰がいたのか忘れてしまったので、もちろん「忘れました」とお答えしました。いつも多数を相手にしている通訳は、そこにいる人々についてはほとんど記憶がないという場合も多いのです。通訳の守秘義務というのは、仕事の内容だけではなく、そこにいた人たちのことも含まれると考えた方が良いでしょう。

またある会議は、今では決着のついたテレビ技術の会議でした。当時、デジタルテレビの技術については各社がしのぎを削っていました。その会議では、最先端の技術をA社と提携するという戦略についてのものでした。勝てばデジタルテレビ技術のベースとなるので、この会社の仕様がこれからの標準仕様となるわけです。関係者、本当にピリピリとしていて真剣で、こちらが圧倒されました。こういった場合の会議では、「まとめて訳す」とか「過不足なく」という訳ではいけません。技術的に込み入った会議は、正確に全部訳すことが必要です。その時自分が訳した内容が、その後の標準となったことは新聞で知りましたが、やはり誇らしいことでした。

また職務を通じて、企業の買収の難しさ、大変さを肌で感じることもありました。

それは、ある2社(日本企業とアメリカの多国籍企業)が、X社という合弁会社の処置について決める話し合いでした。X社は日本国内に事業所を構えています。

アメリカ側は、X社を買収して、合弁企業ではなくアメリカ側が100パーセントの支配権をもつ子会社にしようとする計画を打ち出しました。日本側は当然、売却する限りはできるだけ高く売りたいというわけです。

2社の間でもっとも平等な場所で話し合いをすることとなり、成田空港の近くにある、どちらの企業にも関係のない、ある町のホテルの会議室が用意されました。

テーブルをはさんで2社の関係者が座ります。買収の値段が提示され、条件が提案され、デューデリジェンスの結果が報告されます。建屋など不動産の価格も提示されました。

それを見た日本側は、もちろん「安すぎる」ということで憤慨します。アメリカ側も譲りません。不動産価格は時価であり、購入時(バブル時代)のものではありません。双方、まったく共通点を見出すことができず、結果はこうなりました。

日本側は、席をけって立ちあがり、そのままコートを手に取ると本社へ帰ってしまいました。アメリカ側は、そのままタクシーを呼んで空港へ戻りアメリカへ帰国してしまいました。

豪奢なホテルの会議室には、ファシリテーターの男性と私、そして用意された飲み物とサンドイッチが残りました。

その男性が、「もったいないから頂いて帰りましょう」とおっしゃったので、二人でサンドイッチをパクパクと頂き、よもやま話をして帰宅しました。いや~~緊迫した中でのサンドイッチ、お味がよくわかりませんでした。

ある取締役会議の通訳では、社長解任を目の当たりにしました。

それは全くのサプライズで、解任された社長もびっくり、私もびっくりでした。役員たちが、社長解任の決議について全員一致で賛成し、そのままその場で退職金などが言い渡され、社長は会議室をあとにしました。

個人的には温かい良い方で、私もお世話になっていましたので、なんとも言えない気持ちでお見送りしました。企業は厳しいのだなと、改めて思いましたし、悲しくなりました。

最後に、すこし怖かった体験です。

初回のコラムにも書きましたように、ある企業がイランの企業の技術診断をするミッションに通訳として参加したのが私の最初の仕事でした。

イランにある現場に入って、相手側企業の技術や技法、使っている工具を診断する通訳をしていたら、オフィスの壁や工場内壁に、若い男性、中高年男性の写真がいたるところに飾っているのです。最初は従業員の写真を提示しているのかなと思い、気にならなかったのですが、私がついていたクライアントの男性が、「この写真はいったい何の写真ですか?」と言ったので、それを通訳しました。かえってきた答えが驚きでした。「この写真は、イラクからの爆撃で死んだ犠牲者の写真だ。戦争の犠牲者です」と言われたのです。

私は、「え~~~、っていうことは、ここはミサイルや爆弾の射程範囲内なんだ。。。。」と少々青くなりました。当時はイランイラク戦争からそう経っていない時代でしたので、緊張しました。帰国して夫が「出張中、イラクのミサイルがイラン側に向いたってニュースがあって、本当に心配したよ」と言いました。

でもイランは、普通の旅行では行けない国でしたし、イラン人はとても優しくまた日本が大好きで歓待されましたので、楽しく過ごせました。

以上が通訳はミタ特集でした。
記載した内容は、10年以上たっていることもあり、お話できた次第です。

実務では、通訳は会議室を出たら、訳した内容は全て忘れることが大事です。

いや現実問題、いったん会議を終えたら次の仕事があるので、頭をクリアにしてしまうので、正直、なにを訳したか、覚えていません・・・
いや~見事なオフセット術です。
そうそう、これも通訳の大事な素質の一つです。

終わったらきれいさっぱり忘れること

これが出来なければ複数にわたる専門分野の用語が整理できずに困りますよ。

さて次回は、通訳になりたての頃の勉強法についてお話しましょう。

では皆さま、また来月!

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