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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 デバイス(宅外現場編) 和田泰治

第1回

デバイス(宅外現場編)

皆さんこんにちは。通訳現場探訪の第1回と第2回は通訳現場で使用しているデバイス(パソコン・タブレットなど)についてです。第1回の今月は自宅外現場編、来月の第2回は在宅通訳編と二回に分けてご紹介致します。

 

そもそも現在のように電子デバイスが当たり前のように通訳現場に持ち込まれるようになったのはそれほど昔のことではありません。エージェントやクライアントからハードコピーの資料を宅急便かバイク便で自宅に送って頂き、必要に応じて紙の資料にマーキングや注釈の書き込みをして準備し、その紙の資料を通訳現場まで持ち込んで業務終了後にその場で返却というアナログなやり方が極々普通でした。パソコンを現場に持ってこられる通訳さんも時折いらっしゃいましたが、当時はインターネットの接続環境も未整備で、現場で出来ることはかなり限定的だったと思います。

 

そうした状況が数年前から大きく変わりました。個人ユーザーでもブロードバンドでのネット接続があたりまえになり、クラウドの普及でDropboxなどのファイル共有サービスも可能になりました。これまではデータ量が重すぎてメールではやり取りできなかった100ページ近いようなパワーポイントの資料も通訳者はネットからダウンロードすることができるようになりました。こうなると、資料を送る側はハードコピーのプリントアウトと配送にかかる手間とコストを削減するため一気にソフトコピーでの共有があたりまえになり、さらに3年間のコロナ禍が駄目を押しました。現在でも状況に応じては現場でハードコピーを準備して頂くようにお願いすることもありますが、あくまで基本はソフトコピーになりました。

 

通訳者が利用できるハードウェアの進歩も同時にこの傾向に拍車をかけたと思います。そしてこのハードウェアデバイスが今月の本題でもあります。

  

決定的だったのが2010年にアップルが発売したiPadでしょう。iPadはそれまでのハードウェアのフォームファクターのラインアップに「タブレット」という革新的なジャンルを創り出しました。パソコンのように多様なアプリを使いこなす必要はないけれどスマートフォンでは画面も小さくドキュメントを読んだり動画を見たりといった用途では満足度が低い。大きなスクリーンでドキュメントの閲覧や簡単な作業が可能で、パソコンより薄くて軽くバッグに入れて持ち運びに容易なデバイスが欲しいという消費者のニーズに見事にはまったのがタブレットです。

  

そしてこのタブレットが充足した「スマホ以上パソコン未満」という落とし所こそ、まさしく通訳者がこれまで紙の資料で行っていた作業を満たすのに必要かつ十分なものだったと言えるでしょう。ネット経由で資料を受領、場合によっては資料に直接マーキングや注釈の書き込みをしながら準備し、通訳現場でその資料を閲覧しながら通訳を行い、手狭なブース内ではキーボードを使わずタッチインターフェイスでも操作ができる手軽なデバイスがタブレットだからです。

  

ということで、現在、通訳者の皆さんがどのようなデバイスを宅外の通訳現場でお使いになっているかを調査してみました。在宅でのオンライン通訳や宅外の現場でご一緒させて頂いた通訳者の皆さん二十数名に業務の後などにお時間の許す限りご質問をさせて頂きました。お忙しく、また業務後で大変お疲れの中、面倒な質問にも快く応じて下さった皆さんに心より感謝しております。本当にどうもありがとうございました。

  

さて、宅外現場で使用されているデバイスはやはりほとんどがタブレットでした。それも約8割がiPadです。iPadの席巻ぶりがよくわかります。
●iPad/iPad Pro 16名
●Androidタブレット2名(Galaxy/Lenovo)
●Windows Surface 2名
●Chrome book1名
●現場にはデバイスは持ってゆかない1名

  

iPadの独壇場と化しているのには理由があります。過去、WindowsやAndroid陣営も様々なタブレットを投入してきましたが、そもそもOS自体がタブレット的な発想に対応したものではなかったためか、どのモデルもiPadの利便性には対抗できず姿を消してゆきました。タブレットではありませんが、キーボードを着脱したり折り畳んだりすることによってタブレット的な使い方もできるSurfaceのような所謂「2-in-1」タイプのラップトップPCがかろうじて比較対象となり得ているような状況です。

  

そうした中、昨年ようやくサムスンがGalaxyタブレットの新ハイエンドモデルを数年ぶりに発売しました。現場で実際にこのGalaxyタブレットを使っている通訳さんに見せて頂きましたが、十分にiPadの利便性に対抗できそうに見えました。噂によるとGoogleもついに今年中に新しいタブレットのモデルを発表するとのことなので、ノンアップルユーザーも少しは選択肢が増えそうです。

  

またiPadにはAirDropという独自の仕組みを利用して同じアップル社製のデバイス同士であればWiFi環境などが無くてもファイル等の共有ができる通信機能があり、現場で緊急の資料を共有する時など非常に便利で、これをiPad選択の理由の一つに挙げている通訳者さんもいらっしゃいました。

  

ソフトウェアについても調べてみました。これまでの紙の資料と同様にマーキングしたり、注釈を書き込んだり、あるいは英語版と日本語版で資料を頂いた時などは両言語を交互にミックスしてページを編集し直したりといったことをするためにソフトウェアが必要ですが、多くのiPadユーザーの皆さんが利用しているのは “GoodNotes”と “Notability”でした。これにPDF Expertを併用している方もいらっしゃいました。GoodNotesとNotabilityはかなり役立つアプリのようですが、両方ともiOS/iPadOS専用のソフトウェアのためWindowsユーザーの私は残念ながらレビューができません。(GoodNotesについては、Windows用のベータ版が既にリリースされており正式版も今年中にはリリースされるのではと噂されております。その際には是非試してみたいと思います。)

  

私自身が現場で使っているデバイスは少数派のSurfaceです。数世代前のSurface Pro 6というモデルですが、キーボードとカバーを装着するとかなり重いです。狭いブースの中などではキーボードを裏に折ってタブレット的に使っています。自宅で使っているデスクトップとラップトップPCもWindowsで、マイクロソフトのOneDriveでデバイス間での資料の共有を行っています。ソフトウェアはPDFの編集にはPDFsamとCubePDFを、SurfaceでのPDFファイルの閲覧とスタイラスペンによるマーキングや書き込みにはDrawboard PDFというソフトウェアを利用しています。

  

今月は以上です。これから現場デビューされる方で、何を準備しようかと思案していらっしゃるようでしたら少しでも参考にして頂ければ幸いです。

  

次回は「在宅通訳編」です。コロナ禍を機にzoomに代表されるリモート会議ツールを活用した在宅での通訳の機会が急増しました。ご経験のある方はご存知かと思いますが、快適に在宅で通訳をしようと考えると設定がなかなか複雑です。複数のパソコンやタブレットが必要になりますし、別途マイクやスピーカー、音声ミキサーなどを利用していらっしゃる通訳者さんもいらっしゃいます。遠隔会議用ツールで逐次、同時通訳を行うそれぞれの際に参考にしていただけるような機器の設定について、これも取材させて頂いた結果を交えてお伝え致します。

  

それではまた次回まで、ごきげんよう。

  

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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