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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 通訳者の連携④
(在宅通訳-後編)
和田泰治

第9回

通訳者の連携④(在宅通訳-後編)

 

今月も引き続き在宅環境での通訳者間連携についてお話致します。

 

在宅で通訳者同士が離れて連携する場合、サブ回線で手を振ったり、音声で声掛けをしたり、あるいはリモート会議ツールの音声アイコンのミュートサインのオン/オフを合図にしたりといろいろな工夫がされているというお話は前回致しました。

 

今回はインターネットで利用できる共有タイマーでの連携について説明致します。実際にはこの連携方法の頻度が最も高いのではないかと思います。

 

共有タイマーというのは、別々のユーザーがそれぞれこの共有タイマーのサービスを提供しているインターネットのサイトにアクセスすると同じタイマーをそれぞれのユーザーが共有して閲覧・操作できるというものです。いろいろな共有タイマーが利用されているようですが、ここでは恐らく通訳者の間で最もよく利用されているのではないかと思われる「Chronograph」という共有タイマーを例にとって連携の方法をご紹介しましょう。

 

これがウェブサイトのスクリーンショットです。ユーザーはそれぞれ事前に共有した同じURLにアクセスします。これで全員が一つのタイマーをネット上で共有した状態になります。誰かがタイマーをスタートさせると全員が経過時間を確認できます。タイマーをストップさせれば全員タイマーが止まったことを視認できます。取り敢えず10分交替で連携を始めたとします。先行の通訳者は自分でタイマーをスタートさせ通訳を始めます。待機中の通訳者はタイマーが動いている間はパートナーの通訳者が通訳をしていると認識しています。10分近くが経過したら、タイマーが止まるのを待ちます。10分10秒とか20秒になる可能性もあります。タイマーが止まったのを確認したら交替して即座に通訳を開始します。一旦停止したタイマーはリセット・再スタートさせる必要がありますが、これを通訳を終えた先行の通訳者が行うのか、あるいは引き継いだほうの通訳者が行うのかは事前に決めておきます。

 

またこの「Chronograph」という共有タイマーは複数のタイマーを作成することができますので、二人の場合は2つ、三人の場合は3つなど個人用のタイマーを作成してそれぞれのタイマーの操作は開始も停止も各人が責任を持って行うということも可能です。
下のスクリーンショットは通訳者A、通訳者B、通訳者Cの三人のタイマーを別々に設定した例です。
タイマーはカウントアップでもカウントダウンでも好きなほうに設定できます。個人によってどちらかが良いという嗜好もあるようです(このスクリーンショットは3つ全てカウントアップです)。

 

このように共有タイマーは通訳に限らずリモート環境でのタイムマネジメントには非常に便利なのですが、このために別のデバイスでの操作が加わるので面倒だという通訳者の方もいらっしゃいます。
そうした場合に交替のタイミングをあらかじめパソコンやスマートフォンの時計の時刻で固定しておくという方法もあります。タイマーで経過時間を測る必要をなくそうというわけです。例えば9時から10時までの1時間の会議を二名で10分毎に分担することを想定してみましょう。

 

09:00-09:10 A
09:10-09:20 B
09:20-09:30 A
09:30-09:40 B
09:40-09:50 A
09:50-10:00 B

 

仮に開始時間が5分遅れて09時08分になっても、09時30分から5分間の休憩が入ったとしても固定した時刻での分担は変えないと決めておきます。

 

宅外の現場と同様に、通訳者が三人体制、四人体制の場合がありますが、これは終日案件など拘束時間が長い業務です。こうしたケースでは単純に10分、15分交替を繰り返すのではなく、間にまとまって休みを取れるようにローテーションを組むことも多くなります。宅外現場編でもご紹介した通り1時間1セットで交替してゆく方法です。三人でローテーションを組む例を見てみましょう。

 

セット1ABAB  9:00-10:00
セット2CACA 10:00-11:00
セット3BCBC 11:00-12:00
*お昼休み   12:00-13:00
セット4ABAB 13:00-14:00
セット5CACA 14:00-15:00
セット6BCBC 15:00-16:00
セット7ABAB 16:00-17:00

 

お昼休みを除いて各通訳者が2時間毎に1時間の休憩を取るローテーションです。上記のケースは各ペアのセットの担当時間帯を固定してその中で10分あるいは15分交替で分担することを想定しています。各時間帯の中で休憩など通訳不要の時間があっても無視して時間帯の単位でペアのセットを交替します。

 

それでは不公平だという場合には、休憩時間などはタイマーを止めます。そうすると各セットの終了時間はその分だけずれますので、切りの良い時刻(各正時や30分)での交替ではなくなります。分担がオフで休んでいる間にどのセットの何番目の担当者が通訳しているのかが時刻だけではわからなくなってしまいますので、別途サブ回線のチャットやLINEなどでその旨のコミュニケーションを継続的に行う必要があります。

 

また、各セット内での交替も共有タイマーを使用するのか、サブ回線のカメラをオンにして手を振ったりして合図するのか、声掛けをするのか、様々なパターンが有り得ます。

 

実際に筆者は直近の3ヶ月で10件以上の在宅通訳の機会がありましたが、共有タイマーを使用する、使用しない、手を振って合図する、声掛けする、時間帯で固定して分担する等、ここでご紹介した全てのパターンを経験しました。前にもお話致しました通り、筆者は原則的にご一緒させて頂く通訳者様のご意向に沿って対応できるよう心掛けておりますが、それだけ様々な嗜好があるということでしょう。

 

さて、今年の連載は今月が最終回です。これまでお読み頂いた皆様には心より感謝申し上げます。本当にどうもありがとうございました。これから通訳の現場でばりばり活躍したいという皆さんに少しでも有益な情報を掲載できたのであれば幸いです。また、非常にお忙しい中、現場やLINEで貴重なご経験やお話をご共有下さった通訳者の皆様にも心より御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 

2024年も引き続き、通訳に役立つ情報を掲載して参りたいと思っております。「通訳者の生活や通訳現場のこんなことが知りたい」というご要望がございましたら是非編集担当までご意見をお寄せ下さい。どうぞ宜しくお願い致します。

 

それではまた次回まで、ご機嫌よう。

 

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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