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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 通訳者の連携②
(宅外現場-後編)
和田泰治

第7回

通訳者の連携②(宅外現場-後編)

 

今月は通訳者の連携・宅外現場の後編です。

 

通訳の順番も開始前に決めておく必要があります。ペアの場合はどちらが先発するか、ジャンケンなどで決めます。3人の場合は1番から2番、3番とローテーションの順番を決めておきます。順番は通訳エージェントのコーディネーターが事前に指定してくるケースもありますが、よくあるのは「五十音順」です。あ行の姓をお持ちの方(青山さんとか相川さんなど)は先発が多くなりがちです。筆者は「わだ」ですので後発になることが多いのですが、不公平になってはいけないということで「逆五十音順」で指定されることもしばしばあります。

 

終日にわたって多数の講演に対応するような場合は通訳者三人、あるいは四人体制となりますが、この場合の分担は単に時間や資料のページで割り振るだけではなく、通訳者のペア毎に担当する講演自体を事前に決めておきます。例えば60分の講演が午前4件、午後4件の合計8セッションあったとします。これをA、B、Cの三人の通訳者あるいはA、B、C、Dの四人で終日対応する場合でみてみましょう。左側が三人、右側が四人でローテーションを組むケースです。

 

① 講演1 60分 A/B A/B
② 講演2 60分 C/A C/D
③ 講演3 60分 B/C B/A
④ 講演4 60分 A/B D/C
⑤ 講演5 60分 C/A A/B
⑥ 講演6 60分 B/C C/D
⑦ 講演7 60分 A/B B/A
⑧ 講演8 60分 C/A D/C

 

長丁場の業務では、ある程度まとまって休憩ができるようにということと、事前に準備するセッションを限定するという意図があります。上記のケースでは60分ずつの休憩がとれます(三人の場合は120分続けて担当して60分休憩です)。先発、後発の順番も公平になるようセッションによって順番を変えています。

 

また、この三人のケースではAさんの分担が1セッション分多くなってしまいますが、順番が1番目になった場合にはしばしばあることです。厳密に公平性を担保したいということであれば、例えば最後の講演7と8については通して三人全員で分担し、120分をA/B/Cの交替で繰り返すというやりかたもあります。また、このケースは単純に全講演が60分で揃っていますが、8セッションのうち3セッションは45分、2セッションは30分・・・ということも有り得ます。その場合も出来得る限り担当時間が公平になるよう分担を工夫するのが原則です。
さらに、同じ通訳者で同様な業務が2日間続くような場合は、2日間の総計で公平性が保てるよう配慮して分担を決めることもできます。

 

プレゼンテーションのあとに質疑応答の時間を設ける講演もありますが、この場合はあらかじめ決めた時間での分担をそのまま適用するか、あるいは時間は関係なく一問一答で交替してゆくかどちらかが一般的です。パネルディスカッションの場合はひとつの質問に複数のパネリストが回答したり、途中にプレゼンテーションが入ったりと不規則なケースが多いため、単純に時間交替で分担することが多いように思います。

 

以上筆者がよくご一緒させて頂いている通訳者の皆さんにお話を伺うなど現場での取材結果も含めていろいろと連携の仕方をご紹介してきました。もちろんこれで全てのケースというわけではありません。稀ではありますが、例えば、パネルディスカッションの分担では、時間や一問一答で交替するのではなく、パネラー個人毎に担当通訳者を決め、誰が発言しているかによって通訳者をスイッチするようなルールもあるようです。また、日英・英日どちらかだけを担当するという分担の仕方も筆者は経験したことがあります。こうしたやや変則的なルールは社内通訳や特定のエージェントに所属する通訳者のコミュニティーなどで採用されていることが多いようです。初めてのエージェントや通訳者であったり、クライアント側の社内通訳者とペアを組むような場合は事前にしっかりと先方のローカルルールを確認しておいたほうがよいでしょう。

 

公平性や時間の正確性については通訳者個人によって考え方がまるで違っていることがあります。50分の講演を4分割する時に「取り敢えず10分交替でいいんじゃない?多少不公平になってもたいしたことないでしょ」という方もいれば、「いやいやきっちり12分30秒で交替しましょう」という方もいます。これは正しい、間違っているという話ではありません。どちらにもそれなりの理由があります。

 

今回お話を伺った通訳者の皆さんの大多数に共通していたのは『まずは相手の意向を最大限に尊重する』ということでした。これは筆者も常に心掛けていることです。「分担は時間交替にしますか?交替時間は10分にしますか?15分のほうがよろしいですか?それとも資料のページで分けますか?」「先発、後発どちらがよろしいですか?」など細かい点も含めて気になることは確認しておきましょう。

 

通訳は負荷の高い作業です。パートナーとなる通訳者同士が配慮し合うことで、出来得る限り通訳に集中できるようお互いが気遣うということも長い時間を掛けて培われてきた現場のマナーです。

 

さて、二回にわたり通訳現場での連携についてお話してまいりましたが、次回は在宅リモート環境での通訳者間の連携について考えてゆきます。通訳者同士が顔を合わせて連携できる現場と違い、リモート環境ではパートナーと視覚的にコミュニケーションするのが難しいなどの制約があります。コロナ禍のここ数年で、多くの通訳者の皆さんが苦労を重ねながら様々な工夫をしてきました。その一端をご紹介できればと思っています。

 

それではまた次回までご機嫌よう。

 

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和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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