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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 ツール・文具編その③
(その他のツール)
和田泰治

第5回

ツール・文具編その③(その他のツール)

 

皆さんこんにちは。通訳現場探訪の第5回はその他のツールについてです。

 

イヤホン以外に通訳者の皆さんが現場で使用している共通のツールはタイマーでしょう。通訳現場ではペアワークや三人でローテーションを組むことが多くあります。同時通訳であれば10分や15分で交替しながら通訳を進めてゆきますが、交替のタイミングはできるだけ正確にするのがマナーです(現場での通訳者の連携につきましては来月以降に詳しくお話します)。
正確に経過時間を測るために、現場ではストップウォッチやタイマーを使用することが多いわけです。

タイマーを選ぶポイントは以下のようになるでしょう。
●数字の表示が見やすい。
●ボタン操作がし易い。
●カウントアップとカウントダウンの両方の設定が可能。
●カウントダウンでゼロになった時にライトが点滅する。
●アラームの消音ができる。

ひとむかし前はキッチンタイマー用途のものが主流でカウントダウンでゼロになった時のアラーム音を消音できないものが多かったため、購入後に自分でアラームの配線を切断して使用する強者(つわもの)の通訳者もいましたが、最近は学習用のタイマーが数多く販売されており、図書館などでも使用できるようにアラームの消音とライトが点滅するものがいくらでも手に入るようになりました。

 

さて、多くの通訳者の皆さんが現場で利用している共通のツール類はこれまでご紹介してきたパソコン、タブレット、ボールペン、ノート、イヤホン、タイマーといったところでしょう。

  

ここからは、利用者は少数派なれども必要な者には必携のツールを二点ご紹介します。どちらも眼の悪い方(近眼・老眼)のみ必要なものではありますが、一点目は双眼鏡です。逐次通訳の場合は会場の最前列で通訳をするのが普通ですので多少眼が悪くてもスクリーンやモニターを見るのにそれほど苦労はしないのですが、同時通訳の場合はブースが会場の最後部に位置していることが多いため、双眼鏡は想像以上に利用頻度の高いツールになっています。

  

双眼鏡の選び方にもポイントがあります。倍率は高ければ高いほど良さそうに思いますが、高すぎると視野が狭くなりブースから双眼鏡で見た時に前方のスクリーンやモニターの一部しか見えません。倍率は劣ってもスクリーン全体が一瞥できている状態のほうがずっと通訳はし易いのです。個人的には5倍がベストだと思います。

この写真は愛用しているキャノン製の双眼鏡ですが、非常にバランスのよい製品です。「5 x 17 (9.0°)」というのは倍率が5倍、対物レンズ有効径17mm、実視界9°という仕様を表しています。対物レンズ有効径(これはコンパクトタイプなので小さめです)はレンズの明るさを、実視界は視界の広さを示します。この双眼鏡は、通訳現場で丁度見易い実視界の仕様になっています。さらに表示はされていませんが、この双眼鏡はアイレリーフという仕様が14mmです。これは接眼レンズから眼をはなしていても視野全体を見ることができる距離を示し、眼鏡を掛けている人は14mmか15mmを選ぶのがよいと言われています。
余談ですが、この双眼鏡は通訳現場のみならず、スポーツ観戦、コンサートや演劇、美術館、博物館に競馬場など実に様々なところで役に立ってくれています。

  

さて、最後も眼の悪い方(特に老眼の方!!!)限定ですがルーペです。寄る年波には勝てず、近年は利用頻度が年々高くなっております。

  

これはドイツのEschenbachというメーカーのポケットルーペで倍率は3倍です。LEDライトがついており点灯させるとさらに見やすくなります。プレゼンテーションの資料についてはソフトコピーを手元のパソコンやタブレットで見ながら通訳する機会が増えましたので、デバイスのズーム機能を使って必要な箇所の拡大がその場で簡単にできるようになりましたが、紙の資料で細かい字がびっしり書かれているもの(パワーポイントだけでなく契約書や仕様書など)を参照する時などに便利です。また、昨今増えた在宅での環境では、リモート会議システムでスピーカーが資料を共有した際にモニタースクリーン上の小さな文字が見えず、パソコンのモニター上でルーペを使うケースも増えました。

  

ツール文具編は今回で終了です。通訳者は自分の頭と口が何よりも頼りですが、通訳現場での作業を出来るだけ円滑に行うために様々な道具を利用しているものです。この30年を振り返ってみてもテクノロジーの進歩に従って現場の道具も進化、変遷してきました。通訳を始めたばかりの頃はパソコンは言うに及ばず、辞書も持ち運びできる電子辞書などありませんでしたが、最近の現場では、その電子辞書ですら見掛けることが稀になりました。パソコンやスマホでネット検索するほうが増えているからでしょう。さらにこれからChatGPTなど生成AIの登場でまた大きく変わってゆくのかも知れません。

  

さて今月は以上です。次回からは通訳現場でパートナーとなる通訳者同士がどう工夫して連携しているかというところに焦点を当ててみたいと思います。これから通訳者として現場にデビューしようという皆さんは是非ご一読下さい。
ではまた次回までご機嫌よう。

  

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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