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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『通訳現場探訪』 通訳者の日常学習 和田泰治

第11回

ドレスコード

 

皆さんこんにちは。
通訳者を目指している皆さん、通訳者としてデビューされたフレッシュな皆さんに通訳現場の情報のあれこれを取材してお届けしようという本企画ですが、今回ご質問頂いたテーマは「ドレスコード」です。これは男性、女性で状況が大きく違うことが容易に想像できました。

 

我々男性通訳者の場合は極めてシンプルです。「ネクタイをするかしないか」の選択しか無いと言っても過言ではないでしょう。筆者の場合も「ビジネススーツ」か「普段着(ジーンズにカラーシャツかポロシャツ)」の二択です。クライアントや講演者と直接会う場合はビジネススーツ、エージェントさんのオフィスからのリモート通訳をする場合やスタジオでの収録などの際は普段着です。スーツに関しても別段色とりどりというわけでもありませんのでグレーか紺、せいぜい茶系くらいですから状況に合わせて色で迷うということもありません。

 

これが女性通訳者の皆さんの場合は一体どのような選択肢があり、どのような基準で判断していらっしゃるのでしょうか? 今回も第一線でご活躍中の複数の通訳者の皆さんにお忙しい中ご回答を頂きましたのでまとめてみたいと思います。

 

共通の原則は現場の「堅さ」によって着用するものを選択していらっしゃるということです。「堅さ」の基準は一様ではないようですが、最も「堅い」ものとしては、要人(役員、閣僚など)アテンドや式典で登壇する、官公庁関係の通訳、直接依頼を受けているクライアントだけでなくその得意先や顧客も同席する場合などで、できるだけコンサーバティブな装いを心掛けるとのことで黒系、紺系のスカートスーツやパンツスーツにブラウスなどが定番のようです。ジャケットは着用ということのようですが、クライアントによって襟なしは厳禁ということもあるそうです。初めてのクライアントの場合も最初は状況がわからないので念の為できるだけ保守的な選択をすることが多いとのことです。

 

これよりやや「堅さ」がゆるい場合(クライアントの社内会議・研修、イベントやセミナーで同時通訳のブース内で通訳をする場合など)はカジュアルとまではゆかないまでもワンピース、ジャケットとボトムが揃っていなくてもOK、きちんと目のカットソー、無地のセーター、色も黒系にこだわらず・・・と、かなり自由度が増すようです。ただこうした場でもジャケットだけは必ず着用するという方もいらっしゃいました。

 

女性の場合、ジャケットはフォーマルな現場でもややカジュアルな現場でも着用する場面が多いようですが、暑い時期は体温調整に苦労することも多いそうで、半袖、長袖、ジャケットの重ね着で脱ぎ着しながら調節したり、夏用に薄いジャケットを用意している方もいらっしゃいました。ジャケットは手に持つだけということもあるようです。色については、基本的に「ダークカラーは万能」ということだそうです

 

靴は比較的カジュアル化が進んでいてスニーカー的なシューズを履いていらっしゃる方が多くなっているそうです。

 

その他あんなことがあった、こんな話を聞いたというエピソードをいくつかご紹介しましょう。
●冬にブーツを履いて行ったところ苦情が出た。
●香水をつけ過ぎていないか気をつけている。
●金融業界の仕事でリュックサックはNGと言われた。
●アウトドア教育の通訳でジーンズ着用必須という指示があった(これは実際にアウトドアでアクティビティをしながら通訳をするという大変な現場だったようです)。
筆者が経験の多いIT業界でも、カジュアルウェア指定ということではないのですが、開発者やエンジニアが集う大規模なテクニカルイベントなどでは、数千人という参加者が全員ジーンズにTシャツやポロシャツ、スニーカーということも多く、そういった場に知らずにビジネススーツで参上してしまいますと、その違和感たるや筆舌に尽くし難いものがあります。
●ブランド関連のクライアントの場合は競合ブランドとわかる装い、バッグなどはNGとエージェントから指示があった。
(なるほど、このあたりも気を付けないといけませんね)

 

以上、総括してみますと、クライアントのタイプ、依頼の内容、現場の状況、季節など様々な要素を見極めつつ尚且つおしゃれにも気を配り・・・とこれもまた人とのコミュニケーションを生業とするプロフェッショナルな通訳者の一面と言えそうです。

 

最後に筆者のドレスコードに関する忘れ難いエピソードをご紹介しましょう。東日本大震災直後のことですのでもう十数年前の出来事です。ご記憶の方も多いと思いますが、当時は原子力発電所の稼働停止などを受けて電力需給が逼迫し、計画停電、節電要請が続いておりました。その日は某企業の海外本社役員が某官庁を訪問されるということで、まずホテルで待ち合わせということになりました。冒頭にも書きました通り筆者のドレスコードは極めて単純。ビジネススーツか普段着の二択です。この日はお役所訪問ということで当然のことながらビジネススーツにネクタイという出で立ち。集合場所のホテルでクライアントと顔合わせをしていざ出発という段になりこんなことを言われました。「和田さん、ネクタイははずして下さい。お役所のお客様に失礼ですから」。一瞬意味がわからず「えっ、し、し、失礼????????」と無言になってしまいました。どうやら、節電要請下で空調を切っているお役所の皆様は全員ノータイでいらっしゃるので我々も合わせなければ・・・ということのようでした。筆者も官公庁の仕事は何度もさせて頂いていますが、官庁の方々がそんなことを言うわけがありません。忖度にも程がある。国宝級のエピソードでございます。おあとがよろしいようで。

 

今回は以上です。これからも引き続き通訳に役立つ情報を掲載して参りたいと思っております。「通訳者の生活や通訳現場のこんなことが知りたい」というご要望がございましたら是非編集担当までご意見をお寄せ下さい。どうぞ宜しくお願い致します。

 

それではまた次回まで、ご機嫌よう。

 

和田泰治先生への質問 コラムについてのご感想や通訳現場についてこんなことを知りたいというご意見が
ございましたらこちらまで是非お寄せ下さい。

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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