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和田泰治先生のコラム 『不肖な身ではございますが・・・・こんな私も通訳です!』 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。1983年に明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

第5回:ディベート修行 -その参- 討論に必要な英語のボキャブラリーを習得する!

以前お話致しましたように、学生時代にやっていたディベートはポリシーディベートというもので、国の様々な政策について討論するものでした。例えば30年前に私が実際にディベートを経験したテーマにどんなものがあったか書き出してみましょう。時は1980年代半ばで昭和の時代。社会の関心事もよほど今とは違っていたかと思いきや・・・・・・・・

● 税財政改革
● 農業政策の改革
● 高齢化社会対策の改革
● 環境政策の改革
● 選挙制度改革
● 原子力発電の廃止

えっ、本当に?!・・・・・・とても30年前とは思えないものばかりで今更のように驚きます。どれをとっても今すぐまた同じテーマでディベートをしろと言われて十分に出来そうです。ディベートの命題 (proposition) となるテーマはその時の最も社会的に関心度の高いもの (burning issues) の中から選ばれます。30年経ってもまた同じ命題でディベートが出来そうだということは、これ等がそれほどまでに普遍的な難題なのか、はたまたこの30年間の政治があきれるほど怠慢だったのか・・・・いずれにしろ考えさせられるものがあります。

さて政治談議はさておき、国の政策をテーマに英語で討論するためには、どうしても日頃から時事英語やニュース英語を学ぶ必要があります。そこで大学一年生の時から英字新聞のリーディングを始めました。当時は「Asahi Evening News」という夕刊紙があり、これを毎日一面だけ読むことにしました。当初は知らない単語がたくさんあって苦労しましたが、単語ノートを作って少しずつ覚えることにしました。遅々たるペースではありましたが、経済政策や社会問題に関する語彙は大学の四年間で随分勉強できたと思います。

これもまた英文のリーディングとして、卒業後もそして通訳者として仕事をするようになった現在も日課の一部として継承されています。学生時代には単に知らない単語やフレーズをノートに書き写していましたが、社会人になってからはボキャブラリー強化のためにいろいろなことを試みました。単語ノートにただ単語の意味を書くだけでなく、シソーラスで類語を調べて全部書き出したりした時期もあります。特に動詞や形容詞の語彙力向上にはこれが随分役に立った記憶があります。また、しばらくしてからは、知らない言葉やフレーズが見つかったら、その単語やフレーズを含む文章全体をノートに書き写すということもやっていました。できるだけ実際の文脈の中で、どのようなニュアンスでその単語やフレーズが使われているかを具体的に理解するためです。

前述のとおり、現在でも英語のリーディングは日課の一部です。語彙力の向上という元来からの目的ももちろんありますが、現在では、より英語力全般の強化を目的としてリーディングを続けています。

通訳者としてリーディングを学習の基本に据えているのには理由があります。海外での生活の経験もなければ、これまで身の回りに外国人がいたという経験も皆無の私にとって、通訳をする際の最も大きな課題は英語のリスニングです。そこで通訳者として仕事を始めた当初から、いろいろな先輩通訳者の方をつかまえては機会ある毎にリスニング力を上げるためにはどうすれば良いかと質問しました。そして多くの方々から頂いたアドバイスが、「継続して大量に英語の本を読むこと」でした。大量の英語を頭の中にインプットし、その意味を即座に理解できるように頭を鍛え続ける。それがリスニングトレーニングの基本であり、そのためにはリーディングが一番効果的だというわけです。

英語をインプットするには「読む」か「聴く」しかありませんが、リーディングのほうが読むスピードを自分でコントロールすることができるのでいろいろ利点があります。超高速で読み下しながらどのくらい意味を追ってゆけるかを試してみることもできますし、理解しづらいところに出くわした時には逆にゆっくり何度でも同じところを読み返すことも、途中で辞書を引くことも可能です。あとで調べるためにチェックしておいたり、コメントや注を書き込むこともできます。

根っからの勉強嫌いで、英語の本や雑誌を一定量読み続けるのはそう簡単ではありません。そこで出来るだけ興味の持てるものを選んで読んでいます。主にノンフィクションとミステリーが中心です。合わせて雑誌の”TIME”と新聞の”The Nikkei Weekly”も毎週読むようにしています。これは学生の時から勉強してきたニュース英語の学習の延長です。

さて、トピックスは通訳から離れてしまいますが、最初に挙げた30年前のディベートのテーマのうち今もう一度やってみて最も意義があるのは、やはり原子力政策ではないでしょうか。当時の命題は “Japan should abolish Atomic Power Plants” だったと思います。「日本は原子力発電を廃止するべきである」という命題です。肯定側 (Affirmative)は「廃止すべきである」否定側 (Negative) は「廃止する必要はない」という立場をとっていました。時は1970年代末ですから、アメリカのスリーマイル島の事故の直後、チェルノブイリの事故の数年前という時代でした。かなり否定側が優勢という風潮だったように記憶しています。さらに近年は、温暖化ガスの削減のため化石燃料の使用を減らすことが大前提という世論が大勢を占めたり、産官学すべてがスクラムを組んで原発の安全性や必要性を強力にアピールしたりという中で、この命題では肯定派が圧倒的に不利のような状況が続いていましたが、福島の事故で様相が大きく変わりました。安全性に対する議論だけでなく、今回の東日本大震災と同等の自然災害を想定した場合の原発の安全対策や、放射線被害特有の巨額な被害や損害賠償などを考慮すると原発の経済的な優位性が大きく揺らぐとの論もあります。30年前と比較して代替エネルギーやスマートグリッドの技術や普及も飛躍的に進んでいます。さらに電力消費に対する社会的な考え方も大きく変わろうとしている今なら肯定側、否定側双方ともにあらためて意義のあるディベートができる材料が揃っているのではないでしょうか・・・・・・・

・・・・・なーんて、このコラムを書いているうちにすっかり熱くなって学生時代に戻り、勝手なことをあれこれと書いてしまいました。まことに申しわけございません。ご容赦下さい。

さて、次回はディベート修行の最後として、英語ではなく、コンテンツ、つまりディベートのテーマについての知識を身につけるために実践していたこと、そしてそれが現在、通訳者としてどのように活かされているかをお話し致します。

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