ホーム  >  Tips/コラム:プロ通訳者・翻訳者コラム  >  津村建一郎先生のコラム 第5回:長文の訳し方

Tips/コラム

プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

津村建一郎先生

津村建一郎先生のコラム 『Every cloud has a silver lining』 東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

第5回:長文の訳し方

今回は、Medical翻訳でしばしば遭遇する長文(一文で30~50 wordsあるいはそれ以上の英文)の訳し方について考えてみたいと思います。
(文中の例文に対する標準翻訳は文末にあります。)

Medical文章の特徴のひとつとして、 単語やひとかたまりの語句がやたら長い! ということがあります。翻訳講座をやっていても、10~20 words程度の文ならきれいに訳せる人が、30 wordsを越えるような長文になるととたんにハチャメチャになってしまうことをよく目撃します。
今回は、長文の英語の訳し方について色々と考えてみたいと思います。

1. まず、英語(英文)の特徴をしっかり押さえる
次の英文の違いを説明できますか? ちなみにこの文のWord数は18です。
1:The plaster is removed to assess and grade the exposed skin dermatologically after a 24 hour exposure period.
2:After a 24 hour exposure period, the plaster is removed to assess and grade the exposed skin dermatologically.
3:To assess and grade the exposed skin dermatologically, the plaster is removed after a 24 hour exposure period.
どれも文の内容は「24時間の曝露期間後に、絆創膏を除去し、露出した皮膚を皮膚科学的に評価し、グレード付けする。」ということです。
内容は同じですが、1番から3番の英文は冒頭の部分が違っています。1番はThe plaster is・・・で、2番はAfter a 24 hour・・・、そして、3番はTo assess and grade・・・から始まっています。何故でしょうか?

これが英語(英文)の特徴です。

特徴1:英文では、著者の主張したいこと、あるいは、重要な語句を文頭にもってくる。

2番の英文で著者は、 After a 24 hour exposure period=24時間の曝露期間後に と言うことを主張し、読者に訴えたかったのです。「いいですね、曝露期間の後ですよ!!!」という感じでしょうか。
同様に、2番の英文では、 To assess and grade the exposed skin dermatologically=露出した皮膚を皮膚科学的に評価し、グレード付けする ことを、著者は主張したかったことになります。
1番の英文は平叙文ですが、語順からは The plaster is removed=絆創膏を除去する が主張したいことと言えるでしょう。そしてこの1番の平叙文の語順が S+V・・・ という標準的な形ですので、主語Sの前にカンマで区切られた挿入語句がありません。
一方、2番や3番の英文のように、主張したい語句があるときには、その語句を文頭、即ち、主語Sの前にもってきます。そして、語順を入れ替えたのが解る様に、真の主語の前に「,(カンマ)」を入れます。
1番~3番の英文を、あえて和訳すると次の様になります。
和訳1(平叙文):24時間の曝露期間後に、絆創膏を除去し、露出した皮膚を皮膚科学的に評価し、グレード付けする。
和訳2:絆創膏を除去し、露出した皮膚を皮膚科学的に評価し、グレード付けするのは、24時間の曝露期間後である。
和訳3:24時間の曝露期間後に、絆創膏を除去するのは、露出した皮膚を皮膚科学的に評価し、グレード付けするためである。

この様に、日本文では、強調したい語句を文末に持ってくるのが特徴です。

2. 次に、英語(英文)のメインの主語と動詞をしっかり押さえること
次の英語(英文)の特徴は、

特徴2:英文にはメインパート(主部:S+V)があり、それに様々な説明語句や修飾語句がくっついている

ということです。特に、長文の読解をするときには、メインの主語Sと述語Vがどれかをしっかりと把握することが肝要です。

では、演習として、次の英語長文を訳してみましょう。

Thus, by controlling the identity of cell lineages, the reciprocal interaction of cytokinin signaling and its spatially specific modulator regulates proliferation and differentiation of cell lineages during vascular development, demonstrating a previously unrecognized regulatory circuit underlying meristem organization. ・・・(4)

cell lineage=細胞系統、 reciprocal interaction=相互干渉、 cytokinin signaling=サイトカイニンシグナリング=サイトカイニンシグナル伝達、 spatially=空間的に、 specific modulator=特異的なモジュレーター=特異的な変換装置、 proliferation=増殖、 differentiation=分化、 vascular development=血管発生、 regulatory circuit=調節回路、 meristem organization=分裂組織
この様な長文を読解するときは、解らない単語があっても気にせずに、とりあえず文を2~3回読んで、語句の並び方を把握してください。
大体の語句の並びを把握出来たならば、まずは、文頭に注目します。上述したように、平叙文であれば、文頭の語句がメイン主語です。語句の並べ替えが起こっていると、カンマ(,)で区切られた語句が文頭に来ています。

英文(4)を見ますと、文頭の書き出しに Thus, by controlling the identity of cell lineages, とカンマ(,)で区切られた語句が並んでいます。
つまり、英文(4)では語句の並べ替えが起こっていることが解り、 Thus, by controlling the identity of cell lineages, はメイン主語ではない・・・と察しがつきます。

従いまして、メイン主語はその次にくる語句 the reciprocal interaction of cytokinin signaling and its spatially specific modulator であることが解ります。しかし、この語句の中で、さらにメインとなるものとして the reciprocal interaction=相互干渉 があります。これが真のメイン主語Sとなります。
ちなみに、この主語パートにあるinteractionは、interaction of A and B の形で「AとBの(間の)干渉」という熟語を形成します。

今度は、メインの動詞Vを特定するのですが、平叙文であれば、通常はメイン主語の直ぐ後にくる動詞が該当します。
英文(4)を見ますと、主語パート(the reciprocal interaction of cytokinin signaling and its spatially specific modulator)の直ぐ後ろに regulates=調整する、調節する、制御する という動詞があります。しかも、メイン主語S=the reciprocal interaction と三単現が一致していますので、これで間違いないでしょう。ちなみに、メイン動詞は通常の動詞ですから、分詞や動名詞(~ing:signalingとかdemonstratingなど)またはto不定詞(to+原形動詞:to signalとかto demonstrateなど)がくることはありません。

以上のことから、英文(4)のメインパート(主部:S+V)は・・・ the reciprocal interaction regulates = 相互干渉が制御する/調節する ということが解りました。
さらに、メイン動詞regulatesは他動詞ですから、何らかの目的語を伴っているはずです。動詞に続く目的語(O)や補語(C)は通常、前置詞を伴わない語句で、動詞の後ろに位置しています。
その観点で英文(4)を見回すと、メイン動詞regulatesの後にある proliferation and differentiation=増殖と分化 がみつかります。

これらを組み合わせると、英文(4)のメインパートとして・・・ the reciprocal interaction regulates proliferation and differentiation
相互干渉が増殖と分化を制御する/調節する。
が浮かび上がってきます。
英文(4)のメインパート以外の語句は、この「相互干渉が増殖と分化を制御する/調節する。」を説明したり、修飾したりしている語句だ・・・ということが、解りますよねぇ。
例えば:
● by controlling the identity of cell lineages=細胞系統の同一性を保つことで
● during vascular development=血管が発生している間に(期間に)
● demonstrating a previously unrecognized regulatory circuit=これまでに認められていない調節回路を証明している(明らかにした)
● underlying meristem organization=分裂している組織に潜んでいる

これらの説明語句をメインパートに(適切に)繋いでいき、最後に日本文として微調整すれば、和訳文が出来上がります。

では、もうひとつ、練習問題

A total of 1001 patients with a preoperative World Federation of Neurological Surgeons score of I, II, or III, who had had a subarachnoid hemorrhage no more than 14 days before planned surgical aneurysm clipping, were randomly assigned to intraoperative hypothermia (target temperature, 33°C) or normothermia (target temperature, 36.5°C).  ・・・(5)

preoperative=術前の、 World Federation of Neurological Surgeons=世界脳神経外科連合、 subarachnoid hemorrhage=くも膜下出血、 surgical aneurysm clipping=脳動脈瘤の外科的切除、 intraoperative hypothermia=術中低体温法、 normothermia=正常体温

手順1:まずは文を2~3回通読してしてください。語句の並びが解りましたか?

手順2:メイン主語を探しましょう。
文頭を眺めますと、しばらくカンマ(,)が出てこないので、平叙文と推察されます。
平叙文であれば、文頭の語句 A total of 1001 patients with a preoperative World Federation of Neurological Surgeons score of I, II, or III がメイン主語と思われます。
ここで、patients with A=Aの患者(Aは疾患名や重症度、特殊な状況など) ですから、with~はpatientsの説明文。また、文頭のA total ofは、文頭に数字が来ない様にする英文特有の処置(メディカル系の英文では、文頭に数字が来ないのがルール)ですので、意味はなく、和訳する必要もありません。
ということから、メイン主語Sは・・・ 1001 patients=1001例の患者 となります。

手順3:メイン動詞を探しましょう。
通常は、メイン主語の後ろに位置していますが、英文(5)ではカンマ(,)で区切られた , who had had a subarachnoid hemorrhage no more than 14 days before planned surgical aneurysm clipping, があります。しかし、これは関係代名詞節で、やはりpatientsの説明文となりますので、飛ばしましょう。すると、 were randomly assigned が浮かんできますね。
Randomly=無作為に は副詞ですから、これも無視すると、メイン動詞は were assigned=割付けられた となります。

手順4:メインパートを特定しましょう。
メインの主語と動詞を繋ぐと・・・ 1001 patients were assigned=1001例の患者が割付けられた となります。
ただし、ここで注意することは、英文では試験のデザインや方法、手順などはこの様に受動態で表現されますが、その和訳文は 能動態 で訳します。従いまして、メインパートの和訳文は・・・ 1001 patients were assigned=1001例の患者を割付けた となります。

手順5:メイン動詞の目的語を特定しましょう。
メイン動詞assignは他動詞ですから、何らかの目的語を伴っているはずです。動詞に続く目的語(O)や補語(C)は通常、前置詞を伴わない語句で、動詞の後ろに位置しています。しかし、この英文(5)は受動態ですので、メイン動詞assignの目的語がメイン主語なっています。

英文(5)のメインパート以外の語句は、この「1001例の患者を割付けた」を説明したり、修飾したりしている語句になります。
たとえば・・・
● a preoperative World Federation of Neurological Surgeons score of I, II, or III=術前の世界脳神経外科連合スコアがⅠ、Ⅱ、Ⅲ
● no more than 14 days before planned surgical aneurysm clipping=脳動脈瘤の外科的切除予定日の前、13日以内(no more than=未満ですから後に続く14 daysは含みません)

これらの説明語句をメインパートに(適切に)繋いでいき、最後に日本文として微調整すれば、和訳文が出来上がります。

どうでしょうか、この様に、長文の英文を読解し、翻訳する時には、まず、メインの主語と動詞を特定して、英文のメインパートが見つけられれば、迷路に迷い込むことは避けられます。
あとは、実践あるのみ! 頑張りましょう。

 

*******************************

【本文中の例文の標準翻訳】
英文(4):
この様に、相互干渉は、血管が発生している期間中に細胞系統の同一性を保つことで、細胞系統の増殖や分化を制御しているという、これまでに認められていない、分裂している組織に潜んでいる調節回路が明らかとなった。

英文(5):
術前の世界脳神経外科連合スコアがⅠ又はⅡ、Ⅲ(くも膜下出血を呈し、脳動脈瘤の外科的切除予定日の前、13日以内)の患者1001例を、術中低体温法(目標体温33℃)もしくは術中正常体温法(目標体温36.5℃)に無作為に割付けた。

Copyright(C) ISS, INC. All Rights Reserved.