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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第15回:その人は果たしてheなのかsheなのか?

当コラムも気が付けば連載15回目となりました。毎回テーマ選びには頭を悩ませています。
万策尽きた!と追い込まれたとき、頼りになるのは旧知の仲である会社員時代の同僚や学生時代の友人です。読者目線で「通訳」の仕事について関心のあること、疑問に思っていることなどテーマ選びに役立つヒントをもらっています。なかでも頼りにしているのが、英語の専門学校時代の恩師です。今回もとても良い”Question”をいただきました。

恩師曰く、「日本語には、彼と彼女(he, she) の区別がないので、話の主人公が男であるか女であるかわからないときがあります。そういう時は確認するのかしら?」確かに、初めて訪問するクライアント先の社内会議でTerry, Alex, Chris といったunisex(男女の区別がない)なnick nameが出てきたとき、その後heとするかsheとするか、とまどった覚えがあります。特に新人の頃は「その方は男性ですか?女性ですか?」と聞くこともままならず、話の流れでheかsheかが判別できるまでhe, sheは使わずに最初に出てきたnick nameで通していました。

また日本語で「わたしのきょうだいは…」と言った場合、brother なのかsisterなのかも判断に迷うところです。性別が判断できるまでは、同じ親から産まれた兄、姉、弟、妹を意味する言葉である”sibling(s)”を使って対処しています。同様に職業についても、これは男性が就く職業、これは女性が就く職業といった思い込みを持つのは危険かもしれません。議長(chairman → chairperson)、警察官 (policeman → police officer) と性差のない表現は男女問わず使えます

恩師がこのような質問をされたのは実体験からでした。ある女子大で教鞭をとっていた米国人の講師から個人的に英会話を習っていて、折に触れご家族にその方の話をされていたそうです。レッスンを始めてから10年以上たったころ、初めてご自宅の夕食にお招きすることになりました。海外生活の経験もあり普段から時折英語で会話をされるご家庭です。夕食会の前日の夜、どの席に座っていただくかご主人や娘さんに英語で相談された際、「He..」と言ったところ、お二人が同時に「えっ?ヒイ?」と叫ばれたそうです。女子大で教えているのだから、女性である恩師が習っているのだから、英会話の先生は当然女性だと思い込んでいたとのこと。そのあと10年後の誤解解消にご家族で大爆笑だったそうです。

通訳という作業は高い集中力を要求されますが、集中するあまり、時としてまわりが見えなくなってしまうことがあります。いわゆる「木を見て森を見ず。」といった状態です。余裕をもっていれば、全体を俯瞰で見て、前後の状況から判断できることもあります。固定観念や先入観を取り払って、ニュートラルな状態に戻し、様々な状況に合わせて柔軟な対応をすることが求められます。先の元同僚や友人によると「通訳者」はまじめで勉強ばかりしているお堅い人というイメージがあるそうです。本当にそうでしょうか?

もちろん向学心はありますが、好奇心いっぱいで、ユーモアのセンスがあって、フットワークも軽く、楽しい人が多いように思います。がちがちの頭では、ウイットに富んだユーモアあふれるスピーチも軽快に訳すことはできないでしょう。意図したポイントで聴衆に笑ってもらえないと、スピーカーもがっかりしてしまいます。実は専門用語満載の難解なスピーチよりも、こういった当意即妙な訳出の方が通訳者の腕が問われるところかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は春の訪れが感じられる頃、またお会いしましょう!

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