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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第20回

ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

前回、ChatGPTに真の翻訳はできないというお話をしました。そうだとしても、ChatGPTは翻訳者にとって強力なツールになる。実際に試してみてそう感じ、最近は有料サービスのChatGPT Plus(2023年7月現在、月20ドル)に加入して毎日活用しています。

といっても、文や文章を翻訳してもらうわけではなく(だって、真の翻訳はできないわけですから)、常に英語のみでやり取りしています。日々どのように利用しているのか、翻訳者だけでなく翻訳学習者や英語学習者にも役立つ活用法を紹介していきます。

  

類語の使い分け

類語辞典は多数ありますが、かゆいところに手が届くものに出遭えたことは正直ありません。日本語で書かれたものは、見出し語数が限られていて知りたいものが出てこないし、Oxford Thesaurusなど英語で書かれたものは、日本人が違いを知りたい類語の多くをカバーしていません(なぜなら、日本人に類語と感じられるものの多くがネイティブには類語と認識されていないから)。

だから私は類語辞典を使うことはほとんどなく、英英辞典で各語の意味を吟味するか、googleの検索欄に「competence capability differences」などと入れてネイティブの解説や議論を参照します。それに加えて、最近大活躍してくれているのがChatGPTさんです。

たとえば What are the differences between "unleash his potential" and "unlock his potential"? と尋ねると、一瞬のうちに十数行にわたって解説してくれます。前者は能力が「抑圧されていた」、後者は「隠れていた」というニュアンスがある。なるほど、unleash と unlock の根本的な意味を考えると合点がいく説明です。

  

ニュアンスの違い

類語ではなくとも、ニュアンスの違いが知りたいケースは多々あります。たとえば、When do you need ‘a’ or ‘an’ before “lack of”? などと尋ねてみると、「単数形名詞の前ならa/anを付け、複数形名詞と不可算名詞の前なら無冠詞」という旨の回答。

しかし、これには納得できません。たとえば a lack of time とも言うではないか。というわけで、改めて聞いてみます。When to use "a lack of time" and when to use "lack of time" (no article before lack)?

すると、「時間が足りない」という概念なら lack of time、個別の具体事例であれば a lack of time だと。なるほど、やはりそうか。不可算名詞であっても具体化して輪郭を持つことによって a memorable experience のように可算名詞として扱われるという、一般的な説明と合致します。

私にはネイティブの協力者がいて、何か聞きたいことがあるとLINEで質問して基本1問につき100円を支払っていますが、小心者(でなおかつケチ)なだけに、同じトピックについて疑問が完全に消えるまで何度も尋ねるというのは、気が引けてしまいます。その点、ChatGPTさんには気兼ねなく繰り返し聞けます(でも実は、何度も似たようなことを聞いていると若干申し訳ない気になります)。

  

文法確認

 

冠詞をマスターするのは難しいことですが、そうやっていろんな角度から追究し、When to use "I have an impression that" and when to use "I have the impression that"? のように質問を重ねていくことで、真理に近づくことができるのです。もっとも、究めるには文にたくさん触れ、文をたくさん書くことで「体得」するしかないと考えていますが。

単数と複数というのも、簡単そうで文法書でも網羅はされていません。たとえば、Which is grammatically correct, “People wear a face mask.” or “People wear face masks.”? という一見単純な疑問への問いに、一般的な文法書は答えてくれません(答えは、どちらも正しいが自然なのは後者)。

基本的には理由も説明してくれるはずですが、してくれない場合は Why? と尋ねましょう。同じスレッド内なら前の内容を覚えています。

Can a phrase led by "due to" modify a noun? のような質問に対しては、「基本的には動詞を修飾するけど、簡易的な文や句では名詞を修飾する場合も。ただし、この用法を認めない人もいる」と、ネイティブの間でも見解が分かれているという情報もくれました。

  

文を自然に

 

"Voice from users" Is this expression natural? という形で自然かどうか確認。また、Can you suggest better expressions for "the degree of offence" in the legal context? のように、代案を求めることも。その際は、どんな文脈で使うかを示したほうがベターです。また、Is this natural as a British English sentence? のように、アメリカ英語、イギリス英語などの指定もできます。

Which is more natural, "the trend of the number of traffic accidents in New York" or "the trend in the number of traffic accidents in New York"? のように、一部だけ変えた句を並べてブラッシュアップを図ることも。Why is “in” better than “of” here? と追加質問を重ねていけば、前置詞についての理解も深まるはずです。

コロケーションを調べるには辞典も有効ですが、ChatGPTさんも役立ちます。たとえば、What are the most common objectives for the verb unlock? のように、特定の動詞に合う目的語を挙げてもらう、If you need to fill * in the following sentence, what are your best options? The most frequently * activity around the world is having meals at home. のように空欄補充(生成AIの得意分野)をしてもらうことも。

さらには、Can you improve this sentence? あるいは Can you make this a more natural American English sentence? のように、直接的に頼むことも。回答に対してThanks. Why and in what points is your sentence more natural? と尋ねることをお忘れなく。

  

読解

 

そして、ChatGPTさん、いやChatGPT先生は読解もサポートしてくれます。翻訳学校では、新聞・雑誌を読むことを習慣づけてインプットを増やすことを、強く推奨しています。ただ、慣れないうちは辞書やネットで調べても意味が分からないということも多いでしょうし、結果的に文章全体として何を言っているのか分からない、ということもあるでしょう。

それでは多読の効果も薄れるので、テクノロジーに頼ります。たとえば専門的なフレーズは辞書でカバーされず、Googleでフレーズ検索(ダブルクォーテーションで囲って検索)しても出てこないということが珍しくありません。そこで聞いてみます。

What is brand ownership? しっくり来る答えが返って来なければ、コンテクストを指定しましょう。What is brand ownership in the context of marketing? すると、「マーケティングの文脈では、ブランドのイメージや評判を決めるのは消費者であるという考え方」だと教えてくれます。

新聞のコラムを読んでいて、よく分からない文があれば、段落全体を貼り付けた上で What does this sentence mean in this context? と尋ねると、だいたいの場合で詳しく解説してくれます。

翻訳の仕事では、その文が使われている状況がよく分からない、ということもあります。たとえばゲーム翻訳です。そんなときもThis is a comment from a member of a football (soccer) team at a post-game meeting. What does this mean and what situation do you imagine? のように聞いてみることができます。

 

以上、最近駆使しているChatGPTの使い方を紹介しましたが、翻訳者にとって「疑う姿勢」は常に重要です。鵜呑みにはせず、他のソースや実際の使用例で裏付けを取りましょう。また、個人情報や社外秘情報の入力は避けてください。

他にも多種多様な使い方があるはずです。引き続きいろいろな質問を試しながら、さらに効果的な活用法が見つかったら、またお知らせしたいと思います。

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

村瀬隆宗のプロの視点のアーカイブ

第30回:Another Version of Me:違う「世界線」の自分

第29回:Inflection Point:いつか翻訳が通訳に繋がると信じて

第28回:Hallucination:生成AIとの付き合い方

第27回:opportunity:ただの「機会」ではない

第26回:Insight:洞察?インサイト?訳し方を考える

第25回:Share:provideやgiveより使われがちな理由

第24回:Vocabulary:翻訳者は通訳者ほど語彙力を求められない?

第23回:Relive:「追体験」ってなに?

第22回:Invoice:なぜ「インボイス制度」というのか

第21回:Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

第20回:ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

第19回:ChatGPTその1:AIに「真の翻訳」ができない理由

第18回:Serendipity:英語を書き続けるために偶然の出会いを

第17回:SatisfactionとGratification:翻訳業の「タイパ」を考える

第16回:No one knows me:翻訳と通訳ガイド、二刀流の苦悩

第15回:Middle out:トップダウンでもボトムアップでもなく

第14回:Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

第13回:Bird’s eye view:翻訳者はピクシーを目指すべき

第12回:2つのquit:働き方改革と責任追及

第11回:Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

第10回:BetrayとBelie:エリザベス女王の裏切り?

第9回:Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

第8回:Commitment:行動の約束

第7回:Mis/Dis/Mal-information:情報を知識にするために

第6回:Anecdote:「逸話」ではニュアンスを出せません

第5回:Meta:メタ選手権で優勝しちゃいました

第4回:For〜木を見るために森を見よう〜

第3回:Trade-off〜満点の訳文は存在しない〜

第2回:Translate〜翻訳者は翻訳するべからず?〜

第1回:Principle〜翻訳の三原則とは〜

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