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『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第23回

Relive:「追体験」ってなに?

言葉の意味が分からないときは辞書を引くのが昔も今も基本ではありますが、辞書が理解を妨げることもあります。

以前紹介したanecdoteはその一例で、「<逸話>という代表的な語義では真の意味はつかめませんよ」というお話をしました。今回扱うreliveも、その仲間です。

reliveを英和辞典で引いた際の代表的語義は「追体験する」です。でも「追体験」なんて言葉、使ったことありますか?私は訳だけでなく、自分の言葉としても使ったことがありません。その割にreliveはよく見かけます。

あるいは、「(記憶の中で)再び体験する」。たしかにre + live = reliveなわけですから納得はできるのですが、あまりピンときません。そのように訳しても伝わりにくいでしょう。たとえばready to relive the spotlight as Ultraman Taroを「ウルトラマンタロウとしての脚光を再び体験する準備ができた」。こんな訳し方では、翻訳とは言えません。単なる語句の置き換えです。

そんなときは英英辞典も活用します。ネイティブによる説明で根源的な意味が見えてくることもあります。たとえばOxford Dictionary of English(ODE)には、こうあります。

live through (an experience or feeling, especially an unpleasant one) again in one’s imagination or memory
想像や記憶の中で(経験や気持ち、特に嫌な思い出を)再び体験する

うーん、少しだけ具体化されたものの、英和辞典の語義と大して変わりません。この辺りが辞書の限界でしょうか。そんなときはどうすればいいでしょう?reliveを使った文にたくさん触れて、体で感じます。「辞書にこう書いてあるから、こう」でなく、「みんながこう使っているから、こう」。演繹的でなく帰納的に考えるのが、一段上の英語学習です。

辞典の例文にできるだけ触れ、googleで使用例を検索して、その前後も読む。あるいは、ニュースサイトで過去記事から検索して、必要なら記事をまるごと読む。すると、reliveの輪郭がはっきりと浮かんでくるはずです。

たとえばrelive my childhoodのような使われ方をよく見かけます。その前後も読むと、子供時代を「なつかしむ」、「振り返る」、「懐古する」、「思い出がよみがえる」、「記憶をたどる」のような具合で、体験どうこうというよりも「思い出す」に近いことが分かります。ただし、単なるrememberではなく、nostalgically rememberあるいはemotionally rememberという感じでしょうか。

逆に考えると、英語で表しにくいと言われがちな「なつかしい」を表すには、It helps me relive the cherished memories from my college years.のようにreliveを使うのもひとつの手だということです。

一方、reliveはODEの説明のとおり、relive the worst day in my lifeのように嫌な記憶にもよく用いられます。ニュースを読んでいてreliveをよく目にするのは、銃乱射事件の生還者や被害者親族による述懐の記事です。こちらのreliveはtraumatically rememberといったところでしょう。

というわけで、先ほどのウルトラマンの話は、こんなふうに訳せます。
He is finally ready to relive the spotlight as Ultraman Taro.
ウルトラマンタロウとして注目された頃の話をやっとしてくれるようになった。

まだ小さかった子供を連れて観たウルトラマンの映画には、新しいヒーローだけでなく、なつかしのウルトラファミリーも勢揃いして、当時の俳優さんたちも出てきました。きっと親世代も楽しませようとしてくれたのでしょう。

制作側の思惑どおり嬉しかったのですが、一番好きだったタロウ役の篠田三郎さんの出演はなく、調べてみるとファミリーとは距離を置いているようでした。俳優として、タロウの人という色が付くことを嫌ったのかもしれません。

それが、放送50周年が機なのか、インタビューなどでようやく当時を振り返ってくれるようになったのです。でも「振り返る準備ができた」ではぎこちないので、「話してくれるようになった」と訳しています。reliveに「話す」の意味はなくても、日本語で表現する場合は振り返った上で「述懐する」部分にフォーカスが来るのが普通だからです。

なお、reliveはrelieveと似ていますが、アクセントはreとliの両方に来ます。そしてrelive my younger selfは「若かりし頃の自分を思い出す」ですが、relieve myselfは「用を足す」ですのでご注意ください!

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

村瀬隆宗のプロの視点のアーカイブ

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第29回:Inflection Point:いつか翻訳が通訳に繋がると信じて

第28回:Hallucination:生成AIとの付き合い方

第27回:opportunity:ただの「機会」ではない

第26回:Insight:洞察?インサイト?訳し方を考える

第25回:Share:provideやgiveより使われがちな理由

第24回:Vocabulary:翻訳者は通訳者ほど語彙力を求められない?

第23回:Relive:「追体験」ってなに?

第22回:Invoice:なぜ「インボイス制度」というのか

第21回:Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

第20回:ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

第19回:ChatGPTその1:AIに「真の翻訳」ができない理由

第18回:Serendipity:英語を書き続けるために偶然の出会いを

第17回:SatisfactionとGratification:翻訳業の「タイパ」を考える

第16回:No one knows me:翻訳と通訳ガイド、二刀流の苦悩

第15回:Middle out:トップダウンでもボトムアップでもなく

第14回:Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

第13回:Bird’s eye view:翻訳者はピクシーを目指すべき

第12回:2つのquit:働き方改革と責任追及

第11回:Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

第10回:BetrayとBelie:エリザベス女王の裏切り?

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第6回:Anecdote:「逸話」ではニュアンスを出せません

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第3回:Trade-off〜満点の訳文は存在しない〜

第2回:Translate〜翻訳者は翻訳するべからず?〜

第1回:Principle〜翻訳の三原則とは〜

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