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成田あゆみ先生のコラム 『実務翻訳のあれこれ』 1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。

第16回:英日併記されたデータから、原文のみを一括消去する方法

『語学力ゼロで8カ国語翻訳できるナゾ』(水野麻子著、講談社+α新書)を読んで、私は10年来の苦労から解放されました!! 水野さん本当にありがとうございます!!
(この本のタイトルは明らかに誤解を生むと思います。実際には、猛烈に生産力の高い特許翻訳者が、翻訳の作業的な部分のコツを惜しみなく披露した本です。)

解放された10年来の苦労とは、表題の通り、「翻訳の原文を削除すること」です。もう少し具体的に言うと、Wordの「置換」機能でワイルドカードを使い、原文を一括削除することができるようになったということです。
水野さんは本書の中でワイルドカード置換機能を使った高度な一括置換の例をいろいろ紹介しています。ご興味のある方は本を読んでみて下さい。
ここでは水野さんに敬意を表しつつ、最も基本的なワイルドカードの使い方の一つである「原文一括消去の方法」をお送りします。Wordで置換機能をほとんど使ったことのない人でもわかるよう、できるだけ細かく手順を書いてみます。
この感動を誰かに伝えずにはいられません!!

まず前提事項の確認です。
多くの場合、実務翻訳は、原文ファイルへの「上書き翻訳」という形で行います。
「上書き翻訳」とは、原文と同じ改行や書式を残しながら訳文を入力することを指します。(これに対し、ただ単にWord文書に訳文を入力し、書式などは整えないことを「ベタ打ち」と言います。)
スクールの生徒さんのなかで「上書き翻訳」を「上書きモードで訳すこと」だと勘違いし、半泣きになりながらそうやって訳していた人がいましたが、両者は別のものです。上書きモードだと、日本語を入力した先から原文が消えていくので、ものすごく作業しにくいと思います。

上書き翻訳では、原文の1パラグラフごとに書式を整えながら日本語訳を挿入する形で訳していきます。(ちなみに、上書きモードではなく、挿入モードで入力します。)
つまり、作業中の文書はこのように、英日併記の状態になります。

Article 2第2条
Application適用

1.This Regulation shall not apply to:
本規則は下記の事項には適用しない。
(a) radioactive substances within the scope of Council Directive 96/29/Euratom of 13 May 1996 laying down basic safety standards for the protection of the health of workers and the general public against the dangers arising from ionising radiation;
電離放射から生じる危険に対する労働者及び一般公衆の健康保護のため基本的安全標準を規定する1996 年5 月13 日付け理事会指令96/29/Euratom25の適用範囲内の放射性物質
(b) substances, on their own, in a preparation or in an article, which are subject tocustoms supervision, provided that they do not undergo any treatment or processing, and which are in temporary storage, or in a free zone or free warehouse with a view to re-exportation, or in transit;
物質そのもの、調剤に含まれる物質中又は成形品に含まれる物質であって、税関の監視下の対象でありどのような処理又は加工も受けないもの及び暫定的に貯蔵されているもの、再輸出の意図から規制対象外地域又は規制対象外の倉庫に置かれているもの又は輸送中のもの

このあと原文を消していくわけですが、上の長さならともかく、数十ページもあるような原文になると、消すだけで膨大な手間になります。

なので私は恥ずかしながらこれまで、1パラグラフ訳しては、その都度原文を消していました。
でもそれだと、後からミスに気づいた時に、訳語の統一を取るのが非常に面倒でした。
特に、分量が多いとジレンマに苦しむことになります。
原文が最後まで残っていたほうが、後から気づいたミスを楽に修正できるのですが、でも分量が多いほど後から原文を消すのも大変になる…というわけです。

しかし、原文に細工を施しておけば、Wordの「置換」機能を使って原文を一括削除できるのです。

★Wordのワイルドカード置換機能を使い、原文を一括削除する方法
~下準備編~

訳し始める前に、以下を行います。後で原文を一括削除するための下準備です。
①原文ファイルを開きます。
②Ctrlキーを押した状態で「H」キーを押し、「検索と置換」を開きます。
③「オプション」をクリックして開きます。
④「検索する文字列」のフィールドをクリックします。「検索する文字列」フィールドがアクティブ[=入力可能な状態]になります。
⑤「特殊文字」をクリックして、メニューを開きます。
  ※「特殊文字」がアクティブにならない場合は、「あいまい検索」などに入っているチェックを外します。
⑥「段落記号」をクリックします。
※「段落記号」がメニューにない場合は、③~⑤が正しく行ったか確認して下さい。
⑦「検索する文字列」に^pと表示されます。
※これにより、原文中の段落記号(=改行記号)が検索されます。
⑧次に、「置換後の文字列」フィールドをクリックしてアクティブにします。
⑨「置換後の文字列」フィールドに、■^p●と入力します。
※^pは⑤⑥参照
⑩「すべて置換」をクリックします。このとき、原文は以下のようになります:


●(b) in food or feedingstuffs in accordance with Regulation (EC) No 178/2002 including use:■
●(i) as a food additive in foodstuffs within the scope of Council Directive 89/107/EEC of 21 December 1988 on the approximation of the laws of the Member States concerning food additives authorised for use in foodstuffs intended for human consumption1;■
●(ii) as an additive in feedingstuffs within the scope of Regulation (EC) No 1831/2003 of the European Parliament and of the Council of 22 September 2003 on additives for use in animal nutrition4; ■
●(iii) in animal nutrition within the scope of Council Directive 82/471/EEC of 30 June 1982 concerning certain products used in animal nutrition5.■

つまり、原文の各段落を●と■ではさんだ状態になります。

訳文は、■の直後で改行を入れてから入力します(=■と●の間に入力します)。
入力する場所を間違えると、訳文まで一括消去される場合があるので注意して下さい(防止策は☆参照)

~仕上げ編~
翻訳終了後、訳文を一括して削除します。
①作業内容を一度保存しておきます。
②Ctrlキーを押した状態で「H」キーを押し、「検索と置換」を開きます。
③「検索する文字列」のフィールドに、●(*)■ と入力します。
※ *は「ワイルドカード」です。これで「●と■、およびその間にはさまれた任意の文字を検索する」の意味になります。
④「置換後の文字列」には、何も入力しません。
  ※これで「●と■、およびその間にはさまれた任意の文字を消し去り、後には何も入力しない」の意味になります。
⑤「オプション」をクリックして開きます。
⑥「ワイルドカードを使用する」にチェックを入れます。
⑦「すべて置換」をクリックして、消去を実行します。
  ※消去内容をひとつひとつ確認したい場合は、「置換」をクリックします。

①では、以下のような状態のものを保存します。

●1.This Regulation shall not apply to:■1. 本規則は下記の事項には適用しない。
● (a) radioactive substances within the scope of Council Directive 96/29/Euratom of 13 May 1996 laying down basic safety standards for the protection of the health of workers and the general public against the dangers arising from ionising radiation;■(a)電離放射から生じる危険に対する労働者及び一般公衆の健康保護のため基本的安全標準を規定する1996 年5 月13 日付け理事会指令96/29/Euratom25の適用範囲内の放射性物質
● (b) substances, on their own, in a preparation or in an article, which are subject tocustoms supervision, provided that they do not undergo any treatment or processing, and which are in temporary storage, or in a free zone or free warehouse with a view to re-exportation, or in transit;■
(b)物質そのもの、調剤に含まれる物質中又は成形品に含まれる物質であって、税関の監視下の対象でありどのような処理又は加工も受けないもの及び暫定的に貯蔵されているもの、再輸出の意図から規制対象外地域又は規制対象外の倉庫に置かれているもの又は輸送中のもの
● (c) non-isolated intermediates; ■(c)中間体で単離されないもの
●(d) the carriage of dangerous substances and dangerous substances in dangerous preparations by rail, road, inland waterway, sea or air.■(d)危険な物質や危険な調剤に含まれる危険な物質の鉄道、道路、内陸水路、海路又は空路による輸送

これに、⑦を行うと、次のようになります。

1. 本規則は下記の事項には適用しない。
(a)電離放射から生じる危険に対する労働者及び一般公衆の健康保護のため基本的安全標準を規定する1996 年5 月13 日付け理事会指令96/29/Euratom25の適用範囲内の放射性物質
(b)物質そのもの、調剤に含まれる物質中又は成形品に含まれる物質であって、税関の監視下の対象でありどのような処理又は加工も受けないもの及び暫定的に貯蔵されているもの、再輸出の意図から規制対象外地域又は規制対象外の倉庫に置かれているもの又は輸送中のもの
(c)中間体で単離されないもの
(d)危険な物質や危険な調剤に含まれる危険な物質の鉄道、道路、内陸水路、海路又は空路による輸送●

ワンクリックで原文が全部消えるのです!! 感動~~!!!
改行が余計に入っていたり、●が残っていたりする場合があるので、それを削除して仕上げます。

注意:
☆訳文の入力場所を間違えると、間違って訳文も消してしまう場合があります。現時点で私が考えた防止策は、英文を削除するときにひとつひとつ確認しながら行う(それだと一括削除とは呼べないという落胆の声が聞こえてきそうですが…)。もう一つは以下の通りです。

~訳文誤消去の防止策~
①1パラグラフを訳し終わったら、訳した原文と訳文に蛍光ペンでハイライトをかけておきます。
②仕上げ時は以下のように行います。
1. 作業内容を一度保存しておきます。
2. Ctrlキーを押した状態で「H」キーを押し、「検索と置換」を開きます。
3.「検索する文字列」のフィールドに、●(*)■ と入力します。
4.「置換後の文字列」には、何も入力しません。
※ここまでは上述の「仕上げ編」と同じです。
⑤「検索する文字列」フィールドがアクティブな状態で、「オプション」をクリックして開きます。
⑥一番下の「書式」をクリックして開きます。
⑦「蛍光ペン」をクリックします。
※これにより、●と■、およびその間にはさまれる任意の文字のうち、はさまれた蛍光ペンの任意の文字が検索されます。
⑧「ワイルドカードを使用する」にチェックを入れます。
⑨「すべて置換」(または「置換」)をクリックして、消去を実行します。

こうすると、蛍光ペンをかけ忘れた原文と訳文は消去されないので、誤消去防止になります。

なお、うっかり必要なものまで一括削除してしまった場合は、Ctrlキーを押しながらZを押すと、元に戻せます。

注:カコミ内の原文と訳文には以下を使用しました。
原文:REACH
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2006:396:0001:0849:EN:PDF
訳文:REACH規則・環境省仮訳
http://www.env.go.jp/chemi/reach/reach/reach_article.pdf

第35回(最終回):翻訳は何に例えられるか?

第34回:Stay hungry, stay foolishの訳は「ハングリーであれ、愚かであれ」なのか?

第33回:ISS翻訳カフェ:社内翻訳者座談会より

第32回:8/25開催「仕事につながるキャリアパスセミナー~受講生からプロへの道~」より

第31回:翻訳は男子一生の仕事となりし乎?

第30回:フリーランス翻訳者、PTA役員になる

第29回:翻訳者就活Q&A

第28回:「頑張れ」を英語で訳すと?

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